《MUMEI》

一瞬、何が起こったのか理解できず、ユウゴはぼんやりと口を開ける。
鼓膜が痛んでいることに気づき、ようやく近くで誰かが発砲したのだと理解した。
目の前でケンイチが驚いた表情でユウゴを見ている。
そしてその表情のまま、仰向けに倒れた。
地面に赤黒い血が広がっていく。
「なんで……」
絞り出すようなケンイチの声はユウゴに向けられてはいなかった。
ユウゴはゆっくりと後ろを振り向いた。
右手に銃を握った織田がいつもと変わらぬ無表情でケンイチを見下ろしていた。
「なんで……」
ユウゴもまた、ケンイチと同じ言葉を繰り返すことしかできない。
織田は無言のまま銃口をユウゴに向けた。
「待てよ。俺、ちょっと何がなんだか……」
ユウゴは動悸が速くなるのを感じながらゆっくりと両手を挙げる。
「織田、なんでおまえが」
織田は軽く肩をすくめた。
そして引き金に指をかける。
地面からケンイチのうめき声が聞こえた。
織田がその声に気をとられたのか、少し視線をずらした。
ユウゴは一気に身体ごと織田へ体当たりする。
そして彼の右腕を渾身の力を込めて捻り上げた。
はずだったのだが、気づいたときには織田の左の拳がユウゴの脇腹を捉えていた。
強烈な痛みが走り、立っていることもできずにユウゴは地面に片膝をついてしまった。

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