《MUMEI》

織田が静かに銃を向ける。
ユウゴは織田を睨み上げた。
「終わりだ」
眉一つ動かすことなく織田は言った。
破裂音が響いた。
ユウゴは思わず目を閉じるが、痛みも衝撃も感じられない。
何度も目を瞬かせて、意識をはっきりさせる。
目の前で織田が銃口をこちらに向けたまま、わずかに眉をしかめていた。
右腕に少し血が滲んでいる。
何が起きたのか考えている余裕はない。
ユウゴは素早く背中に収めていた銃を取り出すと織田に向けて撃った。
だが腹部の痛みから狙いがずれ、弾は織田の肩を掠っただけだ。
それでも彼を怯ませることには成功したようだ。
織田は撃たれた反動で大きく後ろにのけ反った。
ユウゴは無理矢理ケンイチを引っ張り起こすと自分の背中に乗せ、もう一発織田に向けて発砲してから走り出した。
振り返ると、ケンイチに蹴られていたあのダウンジャケットの男が織田に駆け寄っていくのが見えた。
しかし、その状況を理解することは今のユウゴには不可能だった。
意識を失いそうなほどの脇腹の激痛に堪えながらケンイチを背負って走りつづける。
耳元でケンイチの苦しそうに息遣いが続いている。
早く手当てをしなければ。
焦る気持ちをなんとか抑えてユウゴは走った。

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