《MUMEI》
3
「だからタオル湯船ん中入れちゃダメなんだって」
強引にバスタオルを奪おうとする男たち。栞里はバスタオルにしがみついて叫んだ。
「ちょっと、やめてください! 編集長助けて」
「はい、そこまでー」
大馬が笑顔で男たちに言った。不良どもはいきり立つ。
「何だよテメー!」
「引っ込んでろこのヤロー!」
しかし大馬編集長は余裕の笑みを浮かべた。
「乱暴はダメでしょう。お巡りさん呼ぶよ」
「舐めてんのかテメー?」
「ばっちー男なんか舐めるわけないでしょう」
すると一人が躊躇なく大馬に歩み寄る。
「ふざけんな!」
「あっ…」
顔面にパンチが入った。大馬が両手で顔を押さえながら倒れ込んだ。
「編集長!」
悲鳴を上げる栞里を不良どもは囲んだ。
「さあタオル取るよ」
「やめて!」
慌てる栞里。老人たちが小さい声で止めた。
「やめなさいよ君たち」
「うるせー!」
「テメーもぶん殴るぞこのヤロー!」
男に対しては凶暴に怒鳴り散らし、栞里を見る目は嫌らしい。これが悪党の本質だ。
「さあ、混浴なんだから裸になりな」
「やめて! やめて!」
「やめないよん」
栞里は両側から腕を押さえられ、一人が両脚に乗った。これでは完全に無抵抗だ。その状態でバスタオルを掴まれた。
「待って、待って、ちょっと待って!」
真っ赤な顔で暴れる栞里。全裸を晒してしまう。
「やめて、やめて!」
栞里、万事休すか。そのとき編集長がダイビングエルボーバット!
「がっ…」
一人が脳天を両手で押さえている。大馬は栞里の手を取ると、自分の後ろに下がらせた。
「何やってんだテメー!」
「それはこっちのセリフ」大馬編集長は人差し指を出して凄んだ。「おめーら俺の大切な部下に何すんだ。世の中舐めてると怪我をするよ」
あまりの迫力のなさに男たちは嘲笑し、栞里は心配した。
「ほざけ!」
「アチョー!」
「編集長!」

次の場面。
「大丈夫ですか?」
浴衣姿の栞里が、旅館の部屋で寝ている大馬編集長の顔を手当てしていた。
「あ、イタタタタタ」
名誉の負傷。口を切り、顔が少し腫れているが、栞里を無傷のまま守ることができた。
警察沙汰を避けたい不良どもは途中で逃走した。
「編集長。本当にありがとうございます。助かりました」
「大切な部下のためならいつでも命を張るよ」
「編集長」
栞里は気を許して弱音を吐いた。
「この場で裸にされちゃうんじゃないかって凄く怖かった」
「いつでも盾になるよ」
「編集長」
「しおりー!」
大馬がいきなり起き上がる。栞里は背を向けた。
「じゃあ、あたしは部屋に戻ります」
「オオオオオ…殿様」
「はっ?」
白鳥ではなく殿様に変身した編集長は、後ろから抱きついた。
「キャア!」
「よいではないか、よいではないか」
「やめてください!」
「姫、よいではないか、よいで…NO!」
顔面に必殺技肘鉄が入った。
「怪我してるのに…」
「うるさいバカ!」
栞里はムッとした顔のまま自分の部屋に戻った。
「何考えて生きてるの?」

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