《MUMEI》

ぷらぷら…



手首を動かしながら椎名は市原を見る。



「…ま、気にすんな。」



「は…?」



「さっきの試合(市立戦)からわかってたけど、


今日俺絶好調だから。


しょ〜がね〜よ。」



「なッ…!!」



千秋を始めとし、


挑発はこのチームの十八番。


誰譲りかは…言わずもがな。















………………………………



赤高ベンチ。



「い〜じゃん千秋♪」



不機嫌な様子から一転して上機嫌なクロ。



「魔神くんもいい感じに興奮してくれたろ〜し、


追い風だ。


絶対その風に乗れよ〜。」



クロの言葉通り、


千秋のプレーは確実に流れを変えた。


榊はその土俵でこれほどまでに分の悪い相手がいることを知らず、


今何が起きたのか?


頭は焦りと混乱。


だがそんなことを榊が知るはずもなかった。


榊に対し、


『その土俵』で勝負を挑んだ者などいなかったからだ。


千秋にとって、


自分の未完成な体が現時点での最強の武器。


当たり負けることが、


千秋にとっての勝利であり、


当たり勝つことなどできない相手である榊は、


千秋にとって負けるはずのない相手だった。



………………………………














コート。



「ふぅ…」



安堵のため息をつく千秋。



(ようやく逸し報いた…


けど…


こんなんじゃまだまだ取り返せないな。)



「ピッ!!」



審判の笛が鳴る。



(さぁ…来い。)

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