《MUMEI》

「…何ニヤついてんだ。」



「え…?」



ヒュッ…!!



コート中央。


しつこくべったりと千秋に付かれる榊にはまだボールは回らない。



「あんなんで勝ったなんて勘違いしてんじゃ」



「…」



「?」



榊の言葉に、


急に笑顔を見せる千秋。



「…何だ?」



「え?」



(こいつ…マジ殺す…)



榊の怒りは頂点に。


だが、


それまでのような威圧感は感じられなかった。


千秋からすれば、


榊の言葉も負け惜しみにさえ聞こえた。



(もう怖くない…)



「…」



榊からは無言の怒りが伺えた。



(ような…気がする…)



ダッ…!!



動き出す榊。



「…勝負だ。」



キュッ…!!



コースを塞ぐ千秋。



(大丈夫…見える。)



ボールは榊へ。



キュッ…!!



榊は足を止め、


視線・腕のフェイクを入れる。


が、


千秋は吊られない。


千秋は榊の足を7割、


上半身を3割といった割合で見ている。


上半身でどうフェイクを入れようとも、


体重移動はあくまで下半身で行われる。



ダッ…!!



榊は千秋のタイミングを崩したつもりで仕掛けるが、



キュッ…!!



千秋は榊の動きにしっかりと付いていく。



(な…)



榊の頭はパニック。



(何で付いてこれんだよ…)



1対1で付かれた者だけが経験する千秋が見せる瞬間的に見せる光速の世界。


現時点では運動神経が比例しない為にそれが大きく目立つことはなかったが、


それだけに榊の目には千秋の動きは奇妙な現象に映った。



(あれ…俺…)



千秋の反射速度は、



(今何歩…)



「ピーッ!!!!!」



榊の脳を混乱へと陥れる。



「オーバーだッ!!」

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