《MUMEI》

 夜になった。

 あの後せっせと家の片付けを手伝い、例の変なオッサンのことは極力考えないようにしていた。

 おかげで、昼間よりだいぶ心が落ち着いた気がする。

 晩御飯を済ませ、居間でゴロゴロしていた私は、喉の乾きを覚え、立ち上がった。

「この辺て自販機とかあるのかなぁ?」

 同じく居間で寝っころがっていたお父さんに訊ねた。お母さんは台所で洗い物をしている。
 お父さんは重々しく首だけをこっちに向けた。

「あーどうだろうなぁ。気にもしてなかったから分からんな」

「そっか…」

 私は一言そう返すと、棚から小銭入れを取った。

「ちょっと確認がてら、行ってくるね」

 お父さんが半身だけを起こした。

「もう暗いぞ、一人で大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。こんな田舎だし、物騒なことなんて何も無いでしょう?」

 ちょっと皮肉を込めて言う。

 夜の都会だったら、チャラチャラしたやつらに絡まれたりとか色々と危険性があるけど、こんなお爺ちゃんお婆ちゃんばかりの田舎で、何をどうされる危険性があるというのか。

 まぁ若者もいるだろうけど、私の中では危険なイメージ0だ。

 あぁそういえば田所さんとかいうド変態がいたが…あれは例外だ。

「まぁそれもそうだが。あまり遠くに行くなよ、それから、寄り道しないですぐ帰ってくるんだぞ」

「はいはい。寄り道ったって、どうせ寄るところなんて無いでしょーよ」

 私は「んじゃ」と軽く手を振って玄関へ向かい、軽いサンダルを履いて外に出た。

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