《MUMEI》
2
栞里は自分の失言に気づきながらも、謝りたくないので反発した。
「別に偏見なんかありません。人の趣味に口出しする気はありませんから」
「でも栞里、SMなんかって言ったじゃん。なんかって」
「あ、それは訂正しますけど」押される栞里。
「一度口から出た言葉はもう訂正はきかないよ」しつこい。
「何が言いたいんですか!」
「そこで逆ギレしちゃダメでしょう」
「逆ギレなんかしていません。あたしはSMに興味がないだけです。全く興味がないあたしが行ったって迷惑というか、相手の方に失礼なんじゃないんですか?」
一気にまくし立てたが、編集長は首を左右に振りながら言った。
「しおりー。君ほど世の中の流れを掴めてない編集者も珍しいよー」
「もう騙されません。編集長の流れでしょ?」
「ちっがーう! 世の中の流れよー。これがね。私Mなんです、なんて女の子がインタビューに行ってみー。SM談義で盛り上がるだけでしょう」
「それでいいじゃないですか」栞里はムッとした顔で言った。
「わかってないね栞里はー。ただ盛り上がるよりも栞里みたいにSMに偏見持ってる子がインタビューするからいいんじゃん」
「何がいいんですか?」
「SMに偏見持っている人は多い。けど、SMプレイって経験ないけど、実際どうなのって女子も結構いる」
「女子?」
驚く栞里を見て大馬は驚いて見せた。
「何驚いてんの栞里。世の中の流れが全然わかってないね」
「しつこい」
「あ、編集長にそういうセリフ吐く?」大馬は笑った。「まあいいや。SMに興味のある女の子なんか大勢いるよ」
「一部でしょう?」
「あれ、もしかして栞里?」
「うるさい」栞里が睨む。
「SMプレイを変態プレイだと勘違いしてない?」
「してませんよ。あたしが全く興味がないだけです」
「そうかなあ。僕の見たところ栞里はMだと思うけど」
「違います!」栞里は赤面した。
「じゃあS?」
「違います!」
「僕はSだからMの栞里とはフィーリングが合うと思うよ」
「セクハラ!」未香子が笑顔で大きい声を出した。
「ギリギリセーフでしょう?」
「余裕でアウトです」栞里が睨んだ。
しかし編集長は笑顔で続ける。
「そうやってSMの話されただけでセクハラセクハラって目くじら立てる純で清らかな女の子だからこそ、SM作家との対談がスリリングでエキサイティングなものになるんじゃん」
栞里は呆れた顔で首を左右に振った。
「何その顔はしおりー。やっぱりね。これからの時代、発想の転換よ。ありきたりな、どっかで見たような内容じゃダメなわけ。もうね。何じゃこりゃあああ! 芸術は爆発だあああ! みたいなさあ。これってええのう?」
「日本語を喋ってください」

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