《MUMEI》
望んでいたもの
「おま…っ何してっ!?くそっ、間に合わねぇ!!」


加奈子が止めたかったのはリョウの行動ではなかった。


修二の持っていた拳銃。
リョウに向けられたその銃口の前に立ち塞がっていたのだ。




だって約束したから…




ズドーンという音と共に舞い上がる砂埃。

リョウが着地したそこは、無惨にもコンクリートがえぐり返っていた。


そして血の海。


腰を抜かして動けなかったのだろう、一人逃げ遅れた有馬が、リョウの下敷きになっていた。


鋭い足の爪が腹にめり込み、涌き水の如くダラダラと鮮血を流している。


まだ息はあるが、どう贔屓目に見ても死ぬのは時間の問題で、こんな事なら一層即死の方が良かっただろうに。


これ以上ない位に目を見開く有馬を見ながら、加奈子はそんな事を思った。





同情なんかじゃない。




人間の悲惨な死に方を目の当たりにしているというのに…




意外と冷静な自分がいる。

きっと望んでたんだ。



リョウが自分の手でこの男に復讐するのを…




徐々に虫の息になっていく有馬を、加奈子はずっと見ていた。

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