《MUMEI》

(俺…そんな気ぃ抜いてるように見えてたかな…?)



後半開始まで既に2分を切っていた。


日高の落ち込みようは誰の目からも明らかであったが、


チームメイトたちには掛ける言葉が見つからなかった。



(どうすんだよクロさん…


ちょっとキツい言い方だったし…


皆の前で言われりゃそりゃ日高も凹むっしょ…)



テーピングを巻き直すことにいつも以上に必死な様子が選手たちから伺えた。


それはしっかり準備を整えておきたいという考えからではなく、


そう見えるであろう状況を盾に、


無意識に日高に声を掛けられない理由を作り出してしまっていた一種のずるさからであった。



「…」



一人考え込む様子の日高を見て、


安本がクロに声を掛ける。



「…ちょっと言い過ぎだったんじゃないか?」



「ですね。」



「だったら…」



「ダメです。」



「え…?」



「言い過ぎは百も承知。


わかった上であえて言ってるんです。


ぶっちゃけた話、


キーパーを100%攻略できる保証なんてどこにもありません。


だとしたら、


日高と関谷はどうしたって走り負けられない状況に立たされます。」



「う…ん…」



「村木が前半速攻を止めてくれたのが逆に日高には悪影響を与えたみたいすね。


多少は大丈夫。


村木が止めてくれる可能性だってあるんだからって。」



「…」



「辛いかもしんないすけど、
それを糧に日高にはこの試合で成長してもらいます。」



「…成長?」



「県内No.1サイドの候補に挙がる要に走り勝てるのであれば、」



「?」



「聖龍にも十分太刀打ちできる選手になると思いませんか?」




「…黒田くん…キミは…」



(もうそこまでを視野に入れてるのか…)

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