《MUMEI》
レイニーデイ 二
 しかし、いよいよ俺たちが分かれる場所が近づいてきた頃に、いきなり田中が口を開けた。
「昔はこうやってよく一緒に帰ったよね」
 俺は首肯する。
「私ね、今も一緒に帰りたかったんだ」
「嘘!? てっきり嫌われたもんだとばかり思ってた」
 田中が目をぱちくりさせ、俺の言葉を否定する。
「ち、違うよ。……逆なんだ」
「逆?」
「向井くんのことが、その、……になっちゃって、一緒に喋ったり帰ったりするのが、恥ずかしくなっちゃったんだ」
 肝心な部分が聞こえなかったが、どうやら俺に悪意を持っていたわけではないらしい。
 胸のつかえがとれるのを感じる。
「……これからも、一緒に帰ってくれませんか?」
 彼女が瞳を潤ませて言う。
 俺は迷わずに答えた。
「もちろん、喜んで」
 田中の顔に花が咲いた。
 しかし良かった。彼女から嫌われていなくて。俺は友達をなくしていたわけじゃなかったんだ。
 そして分かれ道に到達した。
 彼女に傘を差出し、言う。
「ここまでありがとうな、こっからは走って帰るよ」
 しかし彼女は首を降る。
「その傘、あげるよ」
「え、でも……」
「実は別の傘があるんだ」
 彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべると竹刀袋を開いた。そしてそこから安っぽいビニール傘を出した。
 ちょうど俺が盗まれた傘にそっくりだった。
「こんな偶然ってあるんだなぁ」
 俺は感慨深く呟く。



 次の日、登校してみると盗まれたはずの俺の傘がまとめて傘立てに刺さっていた。その内の一つの持ち手に、ゴメンね、と書かれたカードが張りつけてあった。どうやら犯人も反省したようだ。

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