《MUMEI》

 夏の涼しい風が私の頬を撫でる。
 家の中は暑かったから、とても心地良い。
 新居はまだエアコンを設置していないのだ。

 外は思ったより暗かった。
 街灯はあるけど、その明かりが有効なのはその近辺だけ。
 街灯と街灯との間隔が長いから真っ暗な場所がほとんどだった。
 都会の路地裏でもこんなに暗くはないだろう。

「こりゃ自販機なんてなさそうね…」

 あまりにも暗いから、自販機=明かりといった感覚で探していたが、それっぽいものは無い。

 私は立ち止まり、ため息をついた。

「ほんと何もないのね、ここ」

 もう自宅からだいぶ歩いてきたと思う。
 ここまで来て何も無いんだから、もう無いと思っていいかもしれない。

 さすが物騒感0の田舎村だとしても、こう暗いとちょっと不安にもなってくる。
 今の格好も、ゆるゆるのタンクトップにホットパンツ、と無防備極まり無い格好だし。

「帰るか…」

 私は踵を返し、自宅へと一歩踏み出した。
 と、そのとき、

「おや、君は」

 声が聞こえた。
 私はビクッと肩を震わせ、振り返った。
 男の声だった。
 咄嗟に胸元を手で庇う。

「誰っ!?」

 暗くて誰かいるなんて思っていなかった。
 だって本当に暗いのだ。街灯から街灯までの丁度中間地点くらいだしここ。

「ちょっと待ってね、明かり明かり…」

 声の主がそう言ってしばらくすると、視界の下の方がポッと明るくなった。
 その明かりのおかげで、ぼんやりとだが周りの光景も分かるようになった。

 明かりがついた場所は道が二股に分かれる始発点だった。
 Vの字の丁度角の部分である。

 ん?と私は思った。

 この場所って…

 私はゆっくりと明かりの発生元に視線を下ろしていく。
 そこには

「やぁ、また会ったね、茜ちゃん」

 田所さんがいた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫