《MUMEI》 「出たっ!変態!」 私は反射的に一歩後退った。 「相変わらずひどいなぁ茜ちゃん」 「気安く名前を呼ばないで!鳥肌が立つわ!」 自分の両肩をぶるぶるっと身震いする。 改めてよく見てみたら、この場所は昼間こいつと会った場所だ。 歩いてるうちにこんなところまで来てしまっていたようだ。 田所さんは相変わらずみぞおちより下が土に埋まっていて、裸だった。 オッサン、中年太り、ハゲ、胸毛、わき毛。 昼間見たときとキーワードは何ら変わりない。 田所さんは傍にランタンのような物を置いていた。 これが明かりの発生源のようだ。 「女の子がこんな時間に外出なんて、危ないよ?」 「うるさいわね、こんな田舎だし、物騒なことなんて何も無いでしょうよ」 「それもそうだけどね、でも、念には念をだよ」 「ふん、この村に来て一番物騒そうなのはアンタよ」 「言うねぇ茜ちゃん」 田所さんはヘラヘラと笑う。 「で、どうしたの?こんな時間に、何か用があるんでしょ?」 「喉が渇いたから、自販機探しにきたの。まったく、何もないんだからこの村は…」 「自販機?自販機だったらね…」 田所さんは二股に分かれた道の左側指差した。 「この先にちょっと集落になってる場所があるから、そこまで行ったら見つかるよ」 「そうなの?」 「うん、何年か前に駄菓子屋のご主人が設置してくれたんだよ、便利だよね自販機」 「そっか、よかった、自販機すらなかったらこの先どうしようかと思っていたところよ」 「ははは、よかったね」 私は田所さんが指差した方の道に歩みを進める。 が、途中で一つ気になったことがあったので立ち止まる。 「あんたって、ほんと何者なの?」 「オジサンかい?」 田所さんは腕を組んでう〜んと考える。 そして、 「オジサンは田所さんだよ」 笑顔でそう答えた。 前へ |
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