《MUMEI》
7
夜月実の爽やかな笑顔が返って怖い。
「栞里さん。さっきは二人きりは避けたほうがいいと言っといて矛盾していますが、今度はぜひプレイルームで話しましょう」
「ハハハ」栞里は笑ってはぐらかした。
「言うまでもないことですが、指一本触れません」
「もちろん信じてますよ」
「信用してくれて部屋に上がる女性を、裏切ったりしません」
栞里は口もとに笑みを浮かべると、アイスコーヒーを飲む。返答は避けた。
「でも、栞里さんで良かった」
「何がですか?」
「凄く話しやすいし、企業秘密まで喋ってしまいそうです」
栞里は調子に乗った。
「じゃあ、喋らせちゃおうかなあ」
「プレイルームに入ってくれたら喋りますよ」
「うっ…」
栞里はブレーキをかけた。危うくプレイルームに連れ込まれるところだった。
「でも、編集部の仕事はハードだから、彼氏も気が気じゃないでしょう?」
「彼氏?」栞里は目を丸くした。
「栞里さんの彼氏です」
「あたし、彼氏がいるなんて言ってませんよ」
「栞里さんほど魅力的な女性には、彼氏はいますか、なんて聞きません。そのルックスでいないわけがない」
テクニックと知りつつも悪い気はしない。
「上手ですね。彼氏はいないですよ」
「じゃあ、理想が富士山より高いんだ?」
「そんなことないです。でも、変な男ならいないほうがいいから」
「栞里さんならかなり上を狙えるしね」
「違いますよ!」栞里は慌てた。「あたし、そんな自惚れてませんよ」
夜月実はやや真剣な顔になると、栞里の目を真っすぐ見て語った。
「栞里さん。バカな男と付き合ったら人生台無しですからね。恋人選びだけは気をつけないとダメですよ」
「ありがとうございます」栞里は素直に感動した。
まさかここまで話が盛り上がるとは思わなかった。栞里は満足の笑みで店を出た。
「栞里さん。きょうは初対面だし、ファミレスだからソフトな話になりましたけど」
「ソフトでもないですよ」栞里は笑った。
「今度プレイルームでは本題に入りましょう」
「怖いですね」
「ではくれぐれも、危ない男には気をつけてください。狼やハイエナは牙を隠して近づきますから。見抜かないと」
「紳士のふりして?」
「そう、紳士のふりして」
二人は意味ありげな笑顔で見合った。
「夜月さんこそ、彼女によろしく」
「ハハハ。栞里さん。人の技パクッちゃダメですよ。私と付き合う物好きな女性はいませんよ」

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