《MUMEI》
覚悟
名前を呼んだところで、もう自分の事だと自覚する事は、出来ないだろうと思った。
だから撃った。
音なら気付くだろうと…
そうすれば自分に注意を向けてくれるから…
「グルルル…」
リョウは唸りながら加奈子のに体を向けた。
剥き出しにされた牙が、彼の怒りがどれくらいのものなのかを物語っている。
『殺す…殺す…』
そんな言葉が聞こえてきそうな殺気。
完全に自分を無くし、悪魔に支配されたリョウの目には、加奈子が見えていない。
紅く光るその目は、獲物として捕らえていた。
初めて銃を握った手は妙に汗ばみ、心臓が今にも飛び出しそうなくらい緊張が高ぶっている。
それを落ち着かせようと深呼吸を一つ。
「逃げろぉぉぉ!!」
修二の叫び声を合図に、リョウは加奈子に襲い掛かった。
向けらた爪が有馬の返り血を浴び、紅黒く染まっている。
そして
加奈子は覚悟を決めた。
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