《MUMEI》

 「今日もいい天気やな〜」
蝉の鳴き声も耳に喧しい夏の盛り
晴天をこれ幸いに、と畑仕事に精を出していたアンディーノ・イスカは空を仰ぎ見ていた
その背には収穫物を山盛りに入れた籠
ソレに満足し、満面の笑みを浮かべながら
アンディーノは籠を背負ったまま家の中へ
「ラティ、見てみぃ!こーんなに採れたで!」
勢い込んで入って見れば
だが目的の人物は其処には居らず、軽く溜息をつきながら
籠を降ろすとまた外へ
恐らくはあそこだろうと、目途を付け歩き出した
「あれ?おっちゃん。どっか行くん?」
途中、顔馴染みに出会い、世間話を挨拶程度かわす
ヒトを探しているのだと告げると
相手もまた苦笑を浮かべて見せた
「……あの子も相変わらずやね。まだ慣れてないんや」
「そうらしいわ。な、サラ。どないしたらええと思う?」
「そんなんウチ分らんよ。けど」
此処で相手、サラは態々言葉を区切り、アンディーノの横へ
可愛らしい笑みを浮かべて見せたと思えば、突然に頬へキスをしてきた
「な、何やのん。自分!?」
脈絡のないソレに、アンディーノは驚き
サラはその反応に声を上げ笑い出した
「考え込むなんておっちゃんらしくないよ。気長にやりぃな」
「……簡単に言ってくれるけどな」
「おっちゃん、頭脳労働苦手やろ。やったら行動あるのみやん」
違う?と顔をまた間近に寄せられ、アンディーノは返答に困る
口籠ってしまえば、背を強く押されてしまう
「行ってやり。あの子、本音じゃおっちゃんの事まってるよ」
それだけを言うと、サラはその場を後に
手を振りながら去っていく後ろ姿を暫く眺めながら
アンディーノは溜息に肩を落とすと踵を返し歩く事を始めた
探し人が何所に居るか、見当は付いているらしく
目的地のある小高い丘を上っていく
「このやろ!あっち行け!」
頂に近づくにつれ、何やら騒ぐ声が聞こえ
探し人のソレだとすぐに気付いたアンディーノが脚を速めれば
其処には一匹の子羊を庇い、狼と対峙している探し人の姿があった
「……こ、恐くなんて、ないんだからな。お、お前なんて……!」
細い木の棒で果敢にも挑もうとしている様だが
されは流石に無謀というもので
カゴの代わりに背に負うていた長柄の斧を構えると
探し人の首根っこを掴み上げると小脇に抱え上げた
「随分と無謀な事しとるな。自分」
迫り来る狼を斧で薙ぎ払ってやり
ソレが地に伏したのを確認すると、アンディーノは一つ息を吐く
「怪我、ないか?ラティ」
頭へと手を置き、安心させる様に撫でてやりながら問うてやれば
相手、ラティアータ・ヴェノムは突然にその場へと膝を崩してしまっていた
余程恐かったのか、全身が小刻みに震え
見れば幾つか、擦り傷があった
「……帰って、手当しよか」
子羊を柵の中へと戻してやり
そしてアンディーノはラティを背に負うてやる
「……は、離せよ!一人で歩けるぞ、このやろー!」
「はいはい、せやな。けど、今は大人しく運ばれときぃ」
意地を張り、降りると強情をはるラティを軽くあしらい
そのまま家の方へと歩いて行く
「救急箱、救急箱っと……」
戸棚の上に置いてあるソレを取ると、ラティを椅子へと腰掛けさせ
手当を始める
「けど、ラティ」
「な、何だよ?」
手当も最中に、僅かばかり不機嫌そうにラティのなを呼ぶアンディーノ
ラティは自身の行動を叱責されるのでは、と顔を俯かせた
手を際出してやれば、叩かれるとでも思ったのか堅く眼を瞑る
その様にアンディーノは苦笑を浮かべながら、そしてラティの頭へと手を置いていた
「……あんま無茶せんとき。おっさん、心臓口から飛び出るかと思た」
「……」
「頑張り屋なんがラティのええ所やけど、たまにはずる賢く逃げてもええんよ」
身を守ることも大切だと、言い聞かせてやれば
「……嫌だ」
「ラティ?」
だがラティは顔を俯かせたまま手を固く握りしめる
どうしたのか、膝を折って様子を伺ってやれば、その顔は泣き顔で
迂闊な事を言ってしまった、とアンディーノはその小さな身体を抱きしめてやる
「……ったから」
「は?」
小声での呟き
聞き取れず、つい聞き返せば
「お前なら、絶対ああすると思ったんだよ!だから――!」
顔を俯かせ、言葉を詰まらせてしまうラティ

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