《MUMEI》 2「お邪魔します」 「どうぞ」 栞里は初めて夜月実の部屋に入った。マンションの一室。ある意味、逃げ道のない密室だ。 彼女は夜月実を信用していた。力で女性に変なことをする男ではないと。 「栞里さん、お車ですか?」 「いえ、電車です」 「なら、ワインかサワーでも」 「まさか。仕事中ですから」 白いシャツにジーパンというラフなスタイル。栞里はどんな服装でも似合った。夜月は笑顔で栞里に見とれる。 「一杯だけどうです?」 「あたし、お酒あんまし強くないんです。きょうはちょっと勘弁してください」 笑顔で語り合う二人。 「せっかく酔いつぶそうと思ったのに」 「アハハ。ダメですよ、信じてるんだから、裏切っちゃ」 「ダメですよ、少しは疑わないと」夜月の目が光る。 「あ、はい」 「まだ会って2回目です。部屋に入ること自体ホントは感心しません。まあ、信じてくれるのは嬉しいけど」 「もちろん信じてますよ、夜月さんのことは」 栞里は信じているという言葉を何度も繰り返す。これも一つの防御だ。 「信じてくれて光栄です。期待に応えて後悔させてあげないと」 「はっ?」 「冗談ですよ」 栞里はおなかに手を当てた。 「ダメですよ、裏切ったらあ」 「大丈夫。何もしません。ウーロン茶でいいですか?」 「はい」 栞里と夜月はウーロン茶を飲みながら少し談笑した。夜月は怪しい笑みを浮かべると、栞里の目を真っすぐ見た。 「プレイルームで話しましょうか?」 「怖いですね」栞里は緊張の笑顔。 「人格を疑ったらダメですよ」 「え、そんなに凄いんですか?」 栞里は好奇心が湧いてきた。夜月に連れられ、奥の部屋に入る。寝室がプレイルームになっていた。 「へえ…」 キングサイズのベッドの四隅にはベルトが付いている。栞里は感心しながら部屋を見渡した。全体的に照明が薄暗く、危ない雰囲気を醸し出している。 夜月が自慢げに解説を始めた。 「ベッドに大の字に拘束できるように、あらかじめベルトが付いているんです」 「怖い」 「ベルトで固定されたら自力で外すことは無理です」 「はあ…」 「ベルトの内側を見てください。手首足首を傷つけないようにクッション付きです」 「ホントだ」 栞里はクッションを触ってみた。 「これなら女の子が激しく暴れても大丈夫です」 商品説明をする営業マンか店員のような口調の夜月に、栞里は焦った。 「暴れるような酷いことをするんですか?」 「痛い目には遭わしません。でも今までに経験したことの快感が連続すれば、女の子は仰け反りますからね」 栞里は自分が責められて乱れてしまった想像をして、疼いた。 前へ |次へ |
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