《MUMEI》
貴方の長い髪に
貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。
この夜が明ける前に。
ただ一度、
唇を触れたいのです。

世界に終わりが来ても、
貴方は僕を選ばない。
ならば、僕は。
貴方の人生を横切っただけの、風でありたいから。

貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。
僕がただの風ならば。
貴方の髪に唇が触れても、
貴方は困らないはず。

貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。
今日の朝陽が射し込む前に。
ただ一度、
唇を触れたいのです。

この想いを言葉にしても、
貴方は僕に頷かない。
ならば、僕は。
貴方の往く道に佇んでいた、
風でありたいと願う。

貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。

僕がただの風ならば。
貴方の髪を、
微かに揺らしてみても、
貴方は困らないはず。

貴方のその長い髪に。
貴方のその長い髪に。

出来るなら十本の指を入れて、
欲望のままに唇を奪い、
欲望のままに舌を絡ませ、
欲望のままに汚したいのに。

貴方は遠く、
僕を見つめながら、
過ぎた時代を追いかける。
その時代に居たのが、
彼でなく僕であったなら、
決して貴方を、
独りになんて、
させなかったのに。

貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。
この夜が明ける前に。
ただ一度、
唇を触れたいのです。

世界に終わりが来ても、
貴方は僕を選ばない。
ならば、僕は。
貴方が追いかけるあの人の、
影になりたいから。

貴方のその長い髪に、
口づけをさせて下さい。
僕がただの影ならば。
貴方の髪に唇が触れても、貴方は困らないはず。

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