《MUMEI》 帰ってきた答えは何とも要領を得ないそれ 何一つ解らず、井原は深々しい溜息だ 「……なんで、解ってくれない?アナタが、(死に体)でないから?」 話しが通じない事にもどかしさを覚えたのか 少女が明らかに苛立った様なソレを見せ始める 「……ヒトなんて、居なくなってしまえばいい。そうすれば皆が、同じになれるから」 「それで?俺に、死んで屍になれって?」 「そう」 当然と言わんばかりに頷かれ 全く新手する様子を見せない会話に早々に飽きてしまった井原 背の痛みを何とか堪えながら 気を紛らわせようと、懐から取り出した煙草を銜えた 火を付け、白い煙を溜息と共に吐きだせば 伸びてきた細い手に煙草は取られ、そして代わりに相手の唇が重ねられる 「……何の真似だ?」 「あなたが、私のモノだという印」 ソレまでの苛立ったようなそれから一変し、微笑 突然の事に呆気にとられている井原へ 相手は再度笑みを浮かべて向けると、踵を返しその場を後に 一人になった室内 訳がわからないと髪を掻き乱しながら身を起していた その直後 閉じたばかりの戸が、微かな音を立てまた開く音がした 「……屍の様子はどうですかな?」 次々と来る来客に疎ましさを覚えながら だが何となく見覚えのある顔に、井原はその来客を出迎え 開かれた表戸に身を寄り掛らせる 「何か、用か?」 余り有り難くない来客に 井原は最早自身を取り繕う事も忘れ怪訝な表情をして向ける だが相手は気分を害したという様子もなく、僅かに肩を揺らしながら 我関せずと家の中へと入り込んできた 勝手に入り込んできた事には敢えて触れず 井原は改めて、何用かを訪ねてみる 「……屍は、世の礎。あれ失くしては世界は成り立たない」 「は?」 「考える必要などありませんよ。ヒトの思考、そして勘定など、何の意味もないのですから」 「随分な言い草だな」 「けれどこれが事実。この世には未だ何百、何千という屍が埋まっているのだから」 何用かとの井原からの問いに答える事もせず 相手はそれ以上物言わず、踵を返した 「何れ、解る」 短かくそれだけを呟き、また姿を消した 結局、後には井原一人 呆然と立ち尽くしながら、状況を取り敢えず整理・把握・理解しようと考える事を始める だが不可解過ぎるソレにすぐさま止め 「…………飯でも、食いに行くか」 背中の傷の手当ても適当に馴染みの飯屋へと向かうため、自宅を後に 一体、自分の周りで何が起ころうとしているのか ゆるり腰を据え、かんがえをまとめたかったからだ 「いらっしゃい、総さん。どうかしたの?小難しい顔しちゃって」 お冷を持ってきた顔馴染みに小首を傾げられ だが井原自身、状況を理解してらず返答に困ってしまう そのまま答えられずにいると、相手はフッと肩を揺らす 「何か厄介事みたいね。何か飲む?一杯だけなら奢ってあげるわ」 「……えらく気前がいいな」 「だって。そんなシケた顔の総さん、つまらないんだもの」 だから景気付けだとのソレに 井原は苦笑を浮かべ、だがその好意に甘える事にした 「はい。お酌でどうぞ」 出された猪口を礼を言って受け取り 一口飲んで溜息を無意識に吐いていた 「やっぱ、手酌より注いで貰った方がうまいな」 「あら、お世辞?珍し」 さも意外そうな顔をする相手 そしてどうしたのか、徐に井原の向いへと腰を降ろす 「何だよ?」 さも意外そうな顔をする相手 どうしたのか、井原の向かいへと腰を降ろしてくる 「どうした?」 「私にも一杯、注いで貰える?」 「まだ営業中だろ。いいのか?」 「あら、平気よ。桜ちゃん」 井原の問い掛けに笑いながら答え そして徐に店で働く娘子を呼んでいた 「私、暫く総さんと飲んでるから。任せちゃってもいいかしら?」 「は、はい!大丈夫だと思います」 「ありがと。お客が混む様だったら私もすぐ戻るから。遠慮なく呼んで頂戴」 「わかりました」 元気の良い返事を返し、娘は踵を返す その姿を見送り、そして改めて井原の方へと向いて直ってくる 「それで?何があったの?」 「別に」 「う・そ。アンタの顔にちゃ―んと書いてあるわよ。何かありましたって」 前へ |次へ |
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