《MUMEI》
君と桜の木の下で
逃げるようにして辿り着いた場所は
小さな幸せで溢れていて
脳裏に焼き付いた悪夢も
胸に広がる黒い穴も
すべて消え去ると思った
こんな風に晴れた日だった。
肌をなぞる慣れない風
耳を刺激する聞き慣れない騒音
瞳を引きつける見慣れない街並み
初めて踏み込んだこの地
何もかもが初めてだったけれど
唯一“空”だけが昔から変わることなく存在することに心なしか嬉しさを感じていた。
………あれから一年。
この街の生活にも慣れてきた。
今も空は相変わらず、あの頃と同じ死んだような色をして頭上に広がっている。
「…住めば都っは、よういったもんや…」
いつものように校庭の芝生に仰向けになると、体の表面を桜の花びらが春風にのって優しく駆け抜けた。
あの頃は風の音さえ恐ろしかったのに。
「最近はじっくり見る余裕なかったが、桜もこうしてみよると、綺麗やな…」
舞い散る花びらの所為か、それとも暖かい気温の所為だろうか。
徐々に重くなり閉じられた瞼。
木漏れ日が全身を照らし、肌をほのかに熱くする。それは、この身体が長いこと忘れていた眠気を思い出させたようで、少しずつ意識が薄らいで
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