《MUMEI》
5
栞里は、夜月が本気で自分を狙っているとしたら怖いので、笑顔で釘を刺した。
「あたしのことは諦めてください。水着で縛られるなんて考えられません」
「水着よりスリル満点なのがバスタオル一枚です」
「ですから」
「バスタオルはバッと剥がされたら終わり。全部見られちゃいますからね」
栞里はまた自分が全裸で手足を縛られている場面を想像して赤面した。
「恥ずかしい」
「しかも手足を拘束されているから胸も下も隠すことができない。これは悔しいですよ」
「笑顔で言うセリフではないと思いますけど」
「ハハハ」
下半身が疼く。栞里は困った。嫌らしい話を聞いて体が敏感に反応する。栞里は自分が信じられなかった。
「夜月さん、催眠術なんか使ってないですよね?」
「催眠術?」夜月は真顔で聞いた。
「いえ、何でもないです。忘れてください」
夜月はまた笑顔で語る。
「催眠術で女性を操るなんて不可能だと思いますよ。やはり口説いてその気にさせないと」
「同意を得るということですか?」
「同意を得たらスリリングじゃないでしょう」
「同意を得ないで縛ったら犯罪ですよ」栞里は口を尖らせて冗談ぽく言った。
「ハハハ。栞里さん。酔いつぶし作戦には気をつけてください。世の中には悪い男がいますから」
「わかってます」栞里は実感こもった顔で言った。「コーヒーに眠り薬入れる人とかいますからね」
「ハッと目が覚めたときにバスタオル一枚で大の字に縛られていたらどうします?」
栞里は上から覗き込む千変剥の顔が浮かんだ。
「あたしはそんなドジは踏みません」
「今度居酒屋行きましょう」
「行きません!」栞里は笑顔で睨んだ。
「ハハハ。ガード固いですね。女の子はそれくらい警戒心強くないとね。街には紳士の仮面を被った狼やハイエナがウヨウヨいますから」
「ヤですね」
「いつも栞里さんのような美しき獲物を狙っているんです」
夜月実は熱い眼差しで栞里の目を真っすぐ見つめた。
「怖いですね」
「気をつけてくださいよ。栞里さんは本当に魅力的だから」
「はい、気をつけます」
きょうも無事に取材を終えた。たまらない緊張感だ。栞里は自分を確かに持とうと唇を強く結んだ。
玄関で夜月が言う。
「栞里さん。では今度は日本酒でも飲みながら談笑しましょう」
「日本酒?」栞里は目を丸くする。
「日本酒はほら、酔いが回りやすいし、足に来るから」
「アハハハ」栞里は明るく返した。「そう言われて日本酒飲んだら、完全に同意と取られちゃいますね」
二人は笑顔で見つめ合った。ギリギリの駆け引きが続く。

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