《MUMEI》

意外なソレにアンディーノは瞬間虚を突かれ
だがすぐに笑みを浮かべて見せた
「おっさんの事、よう見ててくれたんやね。ありがとうな」
「べ、別に、そんな事……」
ない、と消え入るような語尾のラティ
そっぽを向いてしまったその顔は、見れば耳まで真っ赤で
本当に照れているのだと、アンディーノは更に笑う声をもらす
「何笑ってんだよ!このやろー!」
「ごめん、ごめん。そんな怒らんといて」
悪かったから、と謝ってやれば、ラティは喚く事を止め
上目遣いでアンディーノを睨みつけながら
「メシ、作れ」
「は?飯?」」
「……は、腹が減ったんだよ!悪いか!」
口汚くはあるが、子供らしい素直な言葉
やはり顔は真っ赤のままで
「……本っ当、素直やないなぁ」
「ほっとけ!それより!さっさとしないと開店時間遅れるんだからな!」
時計を指差され
その言葉通り、すっかり時間が差し迫って入る事に気付く
「ほんまや。ほんならラティ。早う飯食うておっさんの手伝いしてや」
「面倒くさいぞ」
はっきりと拒否され、アンディーノは口元を引き攣らせる
だが何とか平静を繕いながら
「なぁ、ラティ」
「何だよ?」
「お前、働かざる者食うべからずって言葉、知ってるか?」
「何だよ、それ」
知らない、とさも当然の様に胸を張るラティへ
アンディーノは眉間に皺を寄せたまま笑みを浮かべてみせた
「……そやろな。ええか?よう聞いとけよ」
行って終りに、アンディーノはラティの背後へと回り
腕を回し、身体を拘束してやる
「な、何すんだ!?離せ!このやろー!」
喚くラティを完全無視し、アンディーノはラティを抱えそのまま外へ
そうして向かった先は
「ほい、到着。今から収穫祭りやで」
一面のトマト畑
真っ赤に熟したトマトに、ラティはあからさまに嬉しそうな顔をしてみせる
「何か赤いぞ!これ、食っていいのか!?」
「ええよ。そん代わり喰い過ぎんようにな」
「わかった」
食べ事になるとやけに素直になるラティ
アンディーノは苦笑を浮かべながら、ラティ用にと拵えてきた籠を背負わせてやった
「食ってもええけど、採ることも事も忘れんとってな」
「採ったらどうするんだ!?夕飯か?」
「夕飯もやけど、店にだすんももう少し欲しいから、頑張って採ったってな」
そんなやり取りをしながら数分
充分な量のトマトを収穫した二人は帰宅
畑れでたらふくトマトを食べたラティは早々に昼寝に床へと入り
その寝息を聞きながら
アンディーノは今現在生業としている飯屋の開店準備に動き始めた
「おっちゃん。何か手伝おか?」
店の表戸が開き、入って来たのはサラで
微妙に作業速度の温いアンディーノを心配してか
度々顔を覗かせてはこうして手伝いをしてくれているのだった
「いつも悪いな。ほんま、ありがとうな」
「そんなんエエよ。気にせんとき」
そう言いながら、サラはアンディーノが取ってきた野菜達をキッチンへ
泥を落としてやる為、水を張った桶の中へと入れる
「やっぱりオッちゃんの野菜、美味しそうやわ〜」
洗ってくれながら、満面の笑みを見せるサラ
その様を作業に動きながらも横眼で見ていたアンディーノは僅かに肩を揺らし
桶の中から小さめのトマトを一つ取ると、ナイフで器用にくし形に
フォークを差し出してやれば、食べてもいいのか、との伺い立てが
「エエよ。手伝ってくれたお礼や」
「ありがと、オッちゃん。いただきます」
行儀よく手を合わせて食べ始め
見せてくれる笑みが、その味の良し悪しを物語っていた
「すっごく美味し!さすがはオッちゃんやね」
「どーも。サラにそう言ってもろておっさん嬉しいわ」
そんなやり取りを交わしながら準備も進み
どうにか定時には開店することが出来ていた
待ち侘びてくれて居たらしい客達が一斉に押し寄せ
その客達の対応に、アンディーノは忙しなく動く
「ディノ!こっち注文頼む!」
「はいはい!チョイ待っててな!」
皆が皆、馴染みの客で
あちらこちらから声が掛かり、店内を右往左往するアンディーノ
その様をどうやら見ていたらしいラティが音も静かに歩み寄り
「……俺、運んでやる」
アンディーノへと両の手を差し出してきた

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫