《MUMEI》
2
「言葉で言われただけで胸がドキドキする。ということは、本当にブラとショーツだけの格好で手足を拘束されたら、どれだけハラハラドキドキできるかわかりません」
夜月は立て板に水だ。言葉がスラスラ出てくる。SM作家だから仕事柄仕方ないが、ずっとそういうことを考えているのだろうか。
「一般論として聞きますね」栞里はあくまでも笑顔で話した。
「栞里さん。ハッと目が覚めたとき、下着姿で手足縛られていたらどうします?」
「ダメですよ、そんなことしちゃあ」
「なぜハラハラドキドキするかというと、まず裸にされたら困るからでしょう?」
栞里は真顔になって話を聴いた。
「これが彼氏や旦那のように裸を見られたら恥ずかしい程度の相手なら、恐怖はない。適度なドキドキ感です」
「はあ…」
「でも相手が私のように裸を見られたくない相手だとハラハラドキドキも最高潮」
「ですから」栞里は笑顔のまま赤面した。
「裸を晒して手で隠せないってきついですよね」夜月の笑顔が危ない。「恥ずかしいし悔しいし、怖いし」
栞里はもがく自分を想像してしまった。
「やっぱり手足縛るのは卑怯ですよ、絶対」
「猿轡を口に咬ますのは、悲鳴を上げさせないためですが、哀願させないためでもあります」
商品説明のように淡々と語るのが返って怖い。
「哀願できないということは目で訴えるしかない。目が唯一の自己主張の方法で、強気に睨む子もいれば、泣き顔で訴えるかわいい子もいる」
栞里は思った。取材だからマニアが喜ぶようにサービスしてくれているのか。それにしてもリアリティがある。まるで見てきたような言い方だ。
「そうなった場合、女はどうすればいいですか?」
栞里の刺激的な質問に、夜月の目が光る。
「Sは強気の女の子が好きです。でもヘタに刺激するのは危険です。弱気に哀願したほうが安全ですね。強気に出たらその強気をくじくために攻められてしまう」
「攻める?」
「例えば、くすぐりの刑とか」
「ダメですよそういうことしちゃ」栞里が怒った顔で言った。
「ハハハ」
「ハハハじゃなくて」
「あと耳もとで囁かれますよ。何だその目は。生意気な態度取るなら犯すよ」
栞里は怯んだ。犯すという警告は効く。彼女はおなかに手を当てた。
「さらに優しく言うんです。でもいい子にしていれば酷いことはしないよ」
「いい子っていうのは悔しい言葉ですね」栞里が顔を紅潮させる。
「でも全裸にされて愛撫されちゃうほうが屈辱的でしょう?」
「やだあ…」
栞里は取材を忘れて想像力を働かせてしまった。
「いたぶられる屈辱を回避するために、プライドを捨てて哀願するわけです。いい子いい子ってされても我慢」
「逃げ道ないんですか?」
「栞里さんならどうします?」
「わかんない…許してもらいますよ絶対」
話はさらに危ない方向へ行く。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫