《MUMEI》
3
夜月は徐々に純粋な栞里をたぐり寄せる。
「栞里さん。嫌いな男っています?」
「嫌いな男?」栞里は目を丸くする。「今はいません」
「今はということは前はいたんですね?」
「まあ、それは一人や二人は」
夜月が無表情で迫る。
「では具体的に一人、顔を思い浮かべてください」
「ええ?」栞里は笑いながら警戒した。「催眠術じゃないですよね?」
「違います、大丈夫です」
笑みをつくる怪しい夜月。栞里は何人かの顔を思い浮かべた。
セクハラ画家の千変剥。温泉で意地悪してきた男三人。でも最終的に選んだのはマッサージ師の刃山狩朗だ。
女をテクニックでその気にさせようという魂胆が許せない。
「はい、一人浮かびました」
「では栞里さん。もしもハッと目が覚めたらバスタオル一枚で手足縛られて無抵抗で、その男が立っていたらどうします?」
「やめてくださいよ、そういうの」
栞里は口を尖らせた。想像したくなかったが想像してしまった。
大の字の格好で無抵抗の栞里。そんな状況で刃山が危ない笑顔で上から顔を覗く。
「夜月さんて、よくそんな恐ろしいことを思いつきますね」栞里は赤い顔で笑った。
「栞里さん。そんなとき、いろんな感情が湧きませんか。嫌いな男に哀願するのは悔しい。けど生意気な態度は怖くて取れない」
「知りません」栞里は真っ赤な顔で笑うしかない。
「相手が嫌いな男なら、もう何をされなくてもハードSMですよ」
刃山なら容赦しないだろう。栞里は想像して胸がドキドキしてきた。バスタオルを剥がされ、全身をくまなく性感マッサージされてしまう。もしも屈服してしまったら屈辱的だ。
「栞里さん。相手が栞里さんにゾッコンで、栞里さんは相手の男を嫌いなパターン。これはスリル満点ですね」
「ですから」栞里は呆れた笑顔。
「あと、相手が栞里さんを凄く嫌いで憎んでいる場合。例えば、恋敵の女とか」
「女?」栞里は目を見開いた。
「女は女に残酷ですよ。同性だから甘えが通用しないし、男以上に緊張感あります」
「緊張感じゃ済まないでしょう」栞里は両手で下腹部を撫でた。「もう平謝りですね。許してくださいって」
「では」夜月がしつこい。「黒覆面8人くらいに囲まれていたらどうします?」
「アハハハ!」栞里は思わず笑った。「泣きますね。怖くて泣いちゃいますよ、たぶん」
「ハードSMというのは危険度が高いんです。その分スリリングです」
「スリリングじゃないですよう」栞里は全身で否定した。「夜月さんはずっとそんな研究を?」
「それが仕事ですから」
「想像の世界ですよね。夜月さん、まさか女の子にそんな悪いことしてないですよね?」
「ハハハ」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫