《MUMEI》
4
栞里は、取材であることを思い出し、話を合わせた。
「なるほど。同じ内容でも相手によって変わるんですね」
「そうです。好きな彼氏に愛撫されるのはドキドキするでしょう。でも作品としては面白くない。大嫌いで軽蔑している男に愛撫されたら悔しいでしょう?」
「悲劇ですよ。想像したくもないです」栞里は真顔で答えた。
「自由の身なら絶対抵抗していますが、手足を拘束されては女の子はどうすることもできない」
「笑顔で言うセリフじゃないですね」栞里は笑顔で睨む。
「栞里さん。もしも嫌いな男がテクニシャンで、敏感な弱点をしつこく責められて、無念にも屈服してしまったらたまらないでしょう」
栞里はおなかに手を当てた。
「それは悔しいですね。立ち上がれないですよ」
栞里の刺激的な回答に、夜月は満足の笑みを浮かべた。
「栞里さん。今までの話を聴いて、縛られてみたいと思いませんか?」
「思いません」即答。
「絶対何もしません」
「その手には乗らないですよ」栞里は笑った。
「その手とは?」
「だって、夜月さんが裏切って変なことしたらアウトじゃないですか」
「すると思います?」
「ああ、微妙ですね」栞里は顔を紅潮させながら話した。「でも、手足縛らせたら、変なことされても文句は言えないですよ。普通は縛らせたりしませんから」
「わざと男の罠にかかってみるのもスリリングですよ」
「知りません」栞里は明るく笑った。

夜月が迫る。栞里はきょうも何とか無事にマンションを出たが、妙な気持ちになってきた。
魔法か催眠術にでもかけられたように、確かに興味は湧いてきた。
もちろん嫌いな男の罠にわざとハマるような無謀なことはしないが、実際に、手足を拘束されるというのはどんな気分だろうか。

その夜。栞里は寝る前にベッドでいけない想像をしていた。
全裸で手足を拘束されて無抵抗の状態で、夜月実が目の前にいる。
「やめて、ほどいて」
もがく栞里。しかし夜月は容赦ない。
「やめないよ、栞里」
もしも夜月実に愛撫されたら、やっぱり落とされてしまうだろうか。
まんまと屈服したら悔しい。女は好きな男に抱かれて初めて感じるのだ。
だから屈服したら、肉体で負けを認めてしまうことになる。
しかし夜月実という男は残酷なことを思いつく。軽蔑している大嫌いな男に落とされるなんて、女にとっては最大の屈辱ではないか。
栞里は笑みを浮かべると、電気を消した。
「やっぱり危ない人だというのは間違いないな」
ちょっと触られるだけならいいが、犯されてしまったら意味がない。さすがにそれは怖い。無抵抗だからあり得る。
興奮してきた。栞里は瞳を閉じると、呟いた。
「ヤバイ。術中にハマってる、あたし?」

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