《MUMEI》 前科 1編集部では、栞里と未香子と大馬編集長が、テレビのニュースを見ていた。 『昨夜の11時過ぎ、二十歳の会社員の女性が、入浴中に侵入してきた覆面男に襲われましたが、被害者の女性の話では、手足を拘束する前にバスタオルを巻くことを許され、ベッドに寝かされて迫られましたが、必死に哀願したところ、犯人は手足をほどき、逃走しました。被害者の女性は無傷です。警察は先日の監禁事件と同一犯人と見て捜査しています』 「またあ?」未香子が呆れるように言った。「まだ犯人捕まってないの?」 「夜月さんのマンションの近くだ」栞里は不安な顔色でおなかに手を当てた。 「嘘。そんな近くで何件も事件起こして何で捕まらないの?」 未香子は怒った。 「栞里チャン、本当に気をつけなよ」 「気をつけます。あ、未香子さんも」 「ありがとう」未香子は笑みを浮かべた。 テレビ画面に釘付けの大馬が口を滑らせる。 「でも、哀願したら許しちゃうなんて優しい犯人だな」 「はあ!」 軽蔑の声が編集部に響いた。真っ先に栞里が噛みつく。 「何が優しいんですか。最低で卑劣な犯人じゃないですか!」 「編集長が犯人なんじゃないの?」未香子が暴言には暴言で返す。 「ミカコー、今の、今のどうかなあ? 今のどうかなあ?」 「そうやって凶悪事件を笑いのネタにするなんて信じられないですね」栞里が睨む。 「凶悪事件じゃないでしょう」 「凶悪です!」栞里は編集長の顔を間近で見すえた。 汗をかく笑顔の大馬を見て、栞里は言った。 「未香子さん。この男女の温度差は何なんでしょうね?」 「それは仕方ないわよ。こういうニュース聞いて怖いと感じるのは、やっぱり女性だから。男は襲われる心配はないし」 「それは違うよ。今の時代男だって…」 「その先は喋らなくていいです」栞里がピシャリと遮った。 未香子がさらに急所を突く。 「でも男性だって女性のことを心配する気持ちがあれば、こういうニュースを他人事のように聞かないでしょう」 大馬は咳払いすると、突然言った。 「未香子に栞里。君たちは魅力的でとびきりかわいいからくれぐれも気をつけるように」 「大丈夫ですよ編集長」未香子が笑った。「編集長がここにいる間は、外は安全です」 「あれ、今の、今のどういう意味かなあ? わかんないなあ?」 社員食堂で昼食を一緒にとる栞里と未香子。味噌汁を飲みながら栞里が聞いた。 「未香子さんは今何を担当しているんですか?」 「性犯罪についてよ」 「へえ」 「過去の変わった事件を調べているんだけど、犯罪者の心理や行動パターンも研究してね。防犯に繋げようと思って」 栞里は興味を示した。 「いいですね。でも未香子さんで良かった。編集長が携わったら違う方向へ行くだろうから」 「単なるエロ本になっちゃうわよ」 「ハハハ」 未香子はさりげなく質問する。 「夜月さんてどんな人?」 「とてもいい人です。凄く紳士的で優しいですよ」 「そう。紳士なのか、彼女がいてほかの女は眼中にないのか」 未香子は気軽に言ったつもりだったが、栞里は胸が騒いだ。 「彼女は、いないって言ってましたけどね…」 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |