《MUMEI》

意外な申し出に虚を突かれたアンディーノだったが、すぐに笑みを浮かべ
ラティにも運べるように料理をカートに乗せ、取っ手を握らせてやる
「助かるわ。ありがとうな」
礼を言ってやれば照れたのか、そっぽを向かれ
小走りに走っていくその後姿に、アンディーノは僅かに肩を揺らしていた
「子供を見守る父親って面してんな。お前」
背後からのソレに向き直って見れば
一番の馴染みであるフォンス・イーヴァンが立って居た
「……いきなり何やのん?自分」
茶化す様なソレに、僅かばかり顔をしかめるアンディーノ
何用か、と一応問う事をしてみれば
「いや、らしくねぇ面してんなって思ってな」
「そか?」
問うた事とは全く関係のない返答
噛みあわない会話に、アンディーノが怪訝な顔を浮かべてみせれば
突然にフォンスの表情から笑みが消えて失せた
耳元へと唇が寄せられ、そして
「……(奴)が、出たらしい」
唯その一言、報告を受けた
表情が強張っていくのを自身で感じながら
だが周りにソレを悟られる事のない様、直ぐに平静を装う
「サラ、ちょっとエエか?」
大勢の客に混じり食事をしていたサラを見つけ、その傍らへ
「オッちゃん、どしたん?」
「食ってる最中に悪いけど、俺、出掛けなアカン様になってな。店番頼んでも構へん?」
理由を告げる事をしないアンディーノへ
サラは瞬間に理解したのか、頷いて返すと
カウンターに引っ掛けてあるエプロンを身に付けた
「解った。後の事はウチに任せて、オッちゃんは行ってきぃ」
頑張って、と手を振られ、アンディーノは手を振り返す
そのまま外へと出て見れば作物に嬉しい穏やかな日差し
途中、畑に寄り道しトマトを一つ採るとそれを齧りながら目的地へと向かう
「ディノ、来たか」
小高い丘、そこの頂にまで到着するとフォンスが先に到着しており
どうしたのか、呆然とそこに立ち尽くしていた
「どないしたん?」
前を見据えるばかりのフォンスと同じ方を向いてみれば
そこに群れをなす狼、その中の数匹が中央にある何かに群れている
僅かに見えたのは、ヒトの手であろう肉片
見たくもない筈のソレをつい凝視してしまえば
「な、なぁ、ディノ。あれって……」
フォンスの言葉も途中
アンディーノは背に負うていた獲物を構え、一瞬の隙もなく土を蹴っていた
「そこ退けや!自分ら!」
「ディノ!?」
突然のアンディーノの行動にフォンスは当然に驚き
危険だから止めておけ、と止めるフォンスの声に耳を貸すこともせず
アンディーノはその群れの中央へ
獲物を力任せに振って回せば
その刃に斬られ全ての狼が地に伏した
「このドアホが!!」
頬の返り血を衣服の袖で雑に拭いながら吐き捨ててやれば
ソレを傍観するしかない羽目になっていたフォンス
どう見ても極悪な顔にしか見えないアンディーノへ
苦笑を浮かべながら
「……お前な。それじゃ悪役だろ」
「ほっとけ」
脚元の死骸を蹴って退ければ、何に群れていたのかを改めて見えた
無残にも食い千切られた人の四肢
アンディーノは歯痒さに奥歯を噛み締めていた
「……あとの処理、任せてもええか」?」
「あ?ああ。解った」
「じゃ頼むな」
それ以上見て居なくなど無い、と
アンディーノは早々に踵を返し、家路に着いた
「……一体何やのん」
最近になりやたらと増えてきた狼
ヒトの肉ばかりを好み、的確に人だけを襲う
度々見る羽目になったその光景は
(あの時)とまるで変わらない
「帰って来やがったな!ディノ!」
自宅へと帰り着けば、とを開くなりラティが飛び付いてくる
小さな手を固く握り、アンディーノを叩き始めた
一体どうしたのか、と後ろに立つサラへと目配せをしてみれば
唯苦笑を浮かべて見せる
「オッさんが居らんで寂しかったん?」
アンディーノにしがみついたまま動こうとはせず
仕方なく抱き抱えてやり、漸くその顔を見る事が出来た
「ただいま」
今更に行ってやれば
「……どっかに行くんなら一言言ってから行けよ。このやろー」
「ホンマやな。オッさんが悪かったわ」
「……ほんとうに、そう思ってるか?」
「思ってるって」
「なら、メシ作れ」
腹が減ったのだとの訴えに
アンディーノは口元を緩ませ、片腕でラティを抱え上げてやれば
「ホンマにラティ君は甘えたさんやね」

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