《MUMEI》 水着姿 1栞里は時間を気にしていた。 「未香子さん。あたしはこれで」 「栞里」 「何ですか?」 「大きなお世話かもしれないけど、会わないほうがいいよ」 栞里は無理に笑顔を見せた。 「ありがとうございます。あたしのことを心配してくれて嬉しいです。でもそれは、未香子さんが夜月さんを知らないからです」 「栞里」 「犯行の内容が卑劣過ぎます。夜月さんには無理です」 未香子はいたたまれない表情で栞里を見た。 「栞里…」 「それに、そんな悪いことを過去にしていたら、本名を名乗るわけがないじゃありませんか」栞里は明るい笑顔で語った。「違うペンネームを使いますよ」 「それはどうかな」 「え?」 未香子が鋭い目で言うので、栞里は不安になった。 「罪の意識が薄い有名人なんか一杯いるじゃない。法に触れてメディアに取り上げられたことを利用して目立って商売にする。そんな厚かましい連中は、偽名なんか使わない」 「夜月さんは、そんな人じゃありません」 栞里は喫茶店を出ると、ウィンドウに映る自分の顔を見た。 「夜月さん…」 本音をいえば自信がない。でも信じたい。疑って別人だったら後悔する。 栞里はふとウィンドウの中の水着を見つめた。派手な水着。セクシーな水着。夜月実が好きそうな水着だった。 栞里は夜月に電話した。 「夜月さん。きょうは約束を破って申し訳ありません」 『いいですよ。ちゃんと連絡くれたわけですから』 「夜月さん。今から行っても大丈夫ですか?」 『今から?』 「はい」栞里は明るく言った。 『夜に来るとは勇者だ』 栞里はドキッとした。 「そういうこと言うから誤解を招くんですよ」 『ハハハ。私は構わないけど』 「じゃあ、ちょこっと遊びに行きます」 栞里は夜月実のマンションへ向かった。 「あたしの知ってる夜月さんは、そんな卑劣なことができる人じゃない。女性警察官を裸にして屋上に置き去りなんて、酷過ぎる」 しかし、さらにもう一人の警察官を拷問した。普通、警察官に手を出したら罪が重くなるはずだ。 それなのに1年8ヵ月は軽過ぎる。裁判の途中で検察側の責めが甘くなったのはなぜか。 テレビドラマによくある圧力がかかるなんてことが実際にあるのか。 そもそも検察に圧力をかけられる権力者ではない。 栞里は、複雑な思いを抱えたまま、夜月の部屋の前に立った。 チャイムを鳴らす。ドアが開いた。 「こんばんは」栞里はニコニコしながら挨拶した。 「こんばんは。どうぞ」 「お邪魔しまーす」 「車?」 「いえ、電車です」 「じゃあ、ワインかサワーでも」 笑顔の夜月に、栞里も甘い声を出す。 「あたしを酔いつぶす気ですか?」 「まさか」 ノリがいい栞里に、夜月の目が燃えた気がした。 前へ |次へ |
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