《MUMEI》
2
栞里は部屋に上がると、夜月実の目を真っすぐ見て言った。
「ダメですよ。あたし、夜月さんのこと信じきって部屋に入るわけですから」
「ハハハ」
「まじめな話です」
栞里は軽く伸びをすると、髪をいじった。
「でもなあ。お酒飲んじゃうとお風呂入れなくなるから」
「じゃあ、先に入る?」
「えええ?」栞里は満面笑顔になると両手を胸に当てた。「夜月さんの前でそれは危険でしょう?」
「何で?」夜月も笑った。「全然危険じゃないよ。バスタオル一枚で出てきても指一本触れないよ」
バスタオル一枚と聞いて栞里はドキッとした。
「あたしにそんな度胸はないです」
「度胸は関係ないじゃん。お酒飲んだあと入浴するのは危険だから、先に入るだけだから」
「先に入るほうが危険でしょう?」
「危険の意味が違うじゃん」
「アハハハ!」
栞里の明るいノリに嬉しくなり、つい夜月はいつもの敬語を忘れて喋っていた。
「栞里さん。誓って何もしないから、バスタオル一枚で出てきな」
「ヤです」
栞里は白い歯を見せると、聞いた。
「本当にお借りしてもいいんですか?」
「もちろん」
「あ、目が光った」
「光ってない、光ってない」
栞里は正直、胸の鼓動は高鳴りっ放しだったが、計画通りバスルームに入った。
無謀な賭けかもしれないが、夜月実は女性に優しい紳士だと信頼しているからできる芸当だと、栞里は自分に言い聞かせた。
意外な展開に夜月は早くもエキサイトした。バスルームから聴こえるシャワーの音は男のロマンだ。
シャワーを浴びているということは、今栞里は全裸だ。一糸まとわぬ姿の栞里を想像する。
しかし、あれだけ警戒していたのにどういう風の吹き回しか。
いろいろ考えているうちにバスルームのドアが開く音がした。
生まれたままの姿の栞里が今、脱衣所で髪を拭き、体を拭いている。
夜月は乱入プレイをしたい衝動を何とかこらえた。
カーテンを開けて栞里が出てくる。
「!」
夜月は目を丸くして栞里を直視した。白の水着姿。夢か幻か何かの間違いか。
濡れた髪にセクシーな白のビキニ。
「栞里…さん」
「似合います?」栞里は照れた。「そんなに見ないでください恥ずかしい」
栞里は水着のままイスにすわり、用意してあったサワーを飲んだ。
「美味しい」
ここまで信用されると感激だ。夜月も良心が刺激される。
「水着、どうしたの?」
「ここ来る途中で買ったんです」
「海行くの?」
「焼かない派なんで海は行きません」
夜月の表情がクエスチョンマークそのものになっている。栞里は水着の紐をいじりながら言った。
「いろいろ考えたんですけど、やっぱり一度、縛られてみようかなあ、なんて思って」
「嘘…」
栞里は、たまらない緊張感に負けずに、すました顔でサワーを飲んだ。

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