《MUMEI》
2
栞里はリラックスした調子で言った。
「でも、刑事を庇う犯人なんて聞いたことないですよ」
「優しさじゃない。すべてに危ノーマルなだけだよ」
「危ない」
栞里は笑うと、足を伸ばしたくなり、両足をベッドに乗せて、尻餅をつくポーズをとる。
両手を後ろにつく栞里を、夜月は見つめた。
「栞里。水着でそのポーズはセクシー過ぎるよ」
「え?」
「犯して欲しいの?」
栞里は慌ててベッドから両足を下ろした。
「ホント怖いこと平気で言いますね」栞里は睨んだ。「さては改心してないな」
「栞里こそ、自分から水着になって、襲われても不利だよ」
「アハハハ!」栞里は明るく笑った。「あたしの場合は、水着だったって証言されちゃうの?」
「そう」
「嘘」
栞里が笑みを浮かべる。夜月の目も危ない。身の危険を感じた栞里は、立ち上がった。
「きょうは、帰ります」
しかし手首を掴まれた。
「やめて夜月さん。本当に怖いから」
「大丈夫。変なことはしない。もう少しいいじゃないか」
栞里は迷った。ハラハラドキドキは最高潮だ。流れからしてこの雰囲気は危ない。
「じゃあ、絶対何もしないと約束してください」
「もちろん。会話がしたいだけだ。君と喋っているときが、いちばん嬉しい時間だから」
栞里は甘い顔をすると、ベッドにすわった。
「じゃあ、もう少しだけ」
「ありがとう」
「服は着ちゃダメですか?」
「水着は怖い?」
栞里は水着の紐をいじった。
「メチャクチャ緊張してますよ」
「ドキドキするのは嫌いか?」
栞里はニンマリした。
「嫌いではないです」
栞里は何を血迷ったか、また両足をベッドに乗せてセクシーポーズ。夜月が押し倒した。
「ギャア!」栞里は慌てて哀願した。「待って、待って、待って!」
待ってくれた。
「ハハハ。犯されると思った?」
「やめなよ、本当に怖いんだからあ」
そう言いながら、栞里はまだベッドの上に寝ていた。
「栞里。今度はバスタオル一枚に挑戦してみな」
「絶対ヤダ」
「もちろんタオルは取らないよ」
「絶対信用しない」栞里は笑顔で言うと、両足をベッドから下ろした。「絶対剥がすでしょう」
夜月はほくそ笑む。
「栞里がやめてって言ったらやめてあげるから」
「絶対嘘だよ」
「惜しいな。究極にして極上のハラハラドキドキが体感できるのに」
「遠慮しときます」
すました顔をすると、栞里は立ち上がった。今度は夜月も止めなかった。
栞里は、夜月実の術中にハマっている自分を否定はできなかった。
口では拒否しながらも、バスタオル一枚で夜月に手足を拘束されたら、どうなるだろうと想像し、下腹部が熱くなった。
「栞里」
「ん?」
「また来るよな」
心配顔の夜月が人間らしく見えて、栞里は思わず優しい気持ちになれた。
「大丈夫。また来ます」
栞里は、惜しみなくキュートなスマイルで答えた。

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