《MUMEI》

耳の奥でヒューヒューと気味の悪い音がする。
無我夢中で走りながら、それが自分の呼吸音だと気づく。
かなりの距離を来たような気がするが、実際はそうでもないだろう。
腹部から走る痛みがユウゴの体力を必要以上に奪っていた。
住宅街の間に小さな神社を見つけ、ひとまずその境内に入る。
そのまま社の裏に回ると、腰を屈めてケンイチをおろしてやる。
彼はもはや意識がないようで力ない身体がドサッと地面に倒れた。
いまだ出血は止まっておらず、彼の服は血液を吸って重くたるんでいる。
どうやら腹部を撃たれたらしく、出血の量が多かった。
「とにかく止血を……」
口の中で呟きながらユウゴは自分の服の袖を破くと、それをケンイチの傷口にきつく結びつけていく。
ケンイチが苦しそうにうめき声をあげたが、構わず縛り上げた。
そしてどうするべきか考えを巡らせる。
彼をこのまま連れ回すことは得策とは言えない。
彼の命にかかわる。
そして、なにより足手まといだ。
しかし、この場に置いて行くわけにもいかない。
病院へ連れて行くべきだろうか。
考えて首を振る。
そんなことは自殺行為だ。
病院こそ、奴らの手が回っているだろう。
では、どうすれば……。
そのとき境内に誰かが近づいてくる気配を感じ、ユウゴは思考を中断した。

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