《MUMEI》

その様子を一部始終見ていたらしいサラ
客が食べ終わった後のテーブルの上の食器を片しながら笑う声を洩らす
そのままアンディーノにしがみつき、離れようとしないラティ
無理やりに剥がすでもなくそのままきっちんへと入ると
アンディーノは何かを作ることを始めた
「何、作ってんだよ?」
「んー。何やと思う?」
興味津津に覗き込んでくるラティへ
アンディーノはつい先程撮ったばかりのトマトを取って出す
「トマトのパスタか!?もしかして!」
「当たり。ラティの大好物のな」
鍋の中で煮立つそれを見せてやれば
ラティの表情が嬉しそうなそれへと俄かに変わった
「は、早くしろ。ディノ!腹減ったぞ!」
「はいはい。もう出来るから、皿持ってきぃ」
「わかった!」
自分の好物と解るや否や、途端に動くラティ
その現金さに、アンディーノとサラが同時に肩を揺らす
「良かったらサラも食ってきぃ。お礼にしては安すぎやけど」
「エエの?ほな、お言葉に甘えさせて貰います」
「そか。なら、もう少し待っててな」
二人分のパスタを鍋へと入れれば
その分量でいいのかとのサラからの問い
アンディーノは僅かに困った様な笑みを浮かべる
「流石に食う気にならんわ。勘認」
「何もオッちゃんが謝ることないのに」
話しの最中も料理に手を動かし
出来あがったソレを皿へと盛ってテーブルの上へ
「ラティ、食ってもエエよ」
「ほ、本当に食ってもいいのか!?」
「勿論。そん代り、サラと半分こな」
「わ、わかったぞ」
二人が向かい合って食べ始めるのを見ながら
アンディーノは徐に壁にかかっている時計を見上げる
PM6:50
閉店時間が迫って居る事に気付く
「そろそろ店じまいやで!皆、食うモン食ったら早う帰れよ」
何とか笑みを取り繕いながら
催促するかの様におたまでフライパンを打ち鳴らす
それも常の光景で
客達は自分達の食器をある程度片し、揃って店を後にした
静かになった店内
途端にラティの食べる手が止まった
「ラティ?もうこちそうさん?」
普段より進んでいない食事に、様子を伺って見れば
ラティは素早くパスタをフォークへと巻き付け
アンディーノの口へと押しこんでいた
「な、何すんの!?ラティ!」
「メシは一緒に食うもんだって言ったのはお前だぞ、このヤロー!」
だから一緒に食え、と二口目を差し出される
「せやったな。ならオッさんもすわって食べるとしますか」
「よし!」
アンディーノが腰を降ろしたのを確認すると
ラティは空いている皿へ、自身のパスタを分け始める
「こないに貰ってエエの?」
「いいんだよ。さっさと食いやがれ!」
ソレがラティなりの気遣いだと気付いたのはすぐで
今はその好意に甘える事にした
「さーて。食うモン食うたらまた畑仕事でもするとしよか」
「また何か植えるのか?」
独り言のつもりで呟いたそれに、ラティが顔を覗きこませてくる
テーブルの上に乗り上げてくるラティを膝の上へと座らせてやりながら
「ラティの大っ好きなトマトが狼に襲われたり背に様、柵してやろうと思てな」
手伝ってくれるか、と顔を覗きこませてみれば
照れくさいのか、ラティはそっぽを向いてしまい
だがすぐに頷いて帰ったのだった……

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