《MUMEI》
2
「ディノ!着替えがねぇぞ!このやろー!」
それから一週間
雨期でもないというのに連日雨が続き
その所為で乾かないままの洗濯物を自宅で大量にほす羽目になっていた
どれもこれもが生乾きで
湿気じみた嫌な臭いを漂わせる
「……アカン。もう着替えが無い」
全開にしたクローゼットを前に途方にくれるアンディーノ
それを後ろから同じく見ていたラティ
「何でだよ!じゃ俺、裸のままか!?」
服が無く、下着一枚のラティが俄かに慌て始め
アンディーノはどうしたものか、頭を悩ませ始めた
「そない悩まんでも、街に買いに出掛けたらエエんとちゃいます?」
「サラ」
悩むばかりで全く進展のない二人の会話に割って入って来たのはサラ
無駄に悩むばかりの二人へ、至極簡単な解決策を提示してくる
「そか、その手があったか」
「気付いて無かったん?」
「ああ。残念なことにな」
「うっかりさんやなぁ。何ならウチ、付いてこか?」
サラのその申し出にアンディーノは暫く考え
素直にその好意に甘える事にした
「ほな、出発!」
未だバスタオル姿のままのラティへ
手近にあったアンディーノのシャツを羽織らせると
サラは二人の腕を取って外へ
三人並んで歩くその様はまるで中睦ましい家族の様なそれだ
「これ、長くて歩きにくいぞ。ちくしょーが」
シャツの長い裾に脚を取られ苦戦するラティ
引き摺って歩いているせいか、すっかり泥で汚れてしまい
更には裾を踏みつけ転んでしまったその様に
アンディーノは深々しい溜息をつくばかりだ
「……やっぱやったか」
見るも無残なソレに愚痴をこぼしながらもラティを抱え上げてやれば
だが着替えなど当然に持ち合わせてはおらず
取りあえず何でもいいから着替えを、と手近な店へと飛び込んでいた
「いらっしゃい。アンタが来るなんて珍しいじゃない、アンディーノ」
人気のない店内
其処に唯一人いるのは店主の女性
ラティの姿を見るや否や、困った様な笑みを浮かべて見せた
「こいつはまた派手にやったねぇ」
「……ホンマにな。それでオバちゃん。悪いけど何着か見繕って欲しいんやけど」
「いいけど、ちゃ―んとお代は戴くわよ」
親指と人差し指で輪を作って見せ、そして服を選び始める
ソレを待っている間に
アンディーノは店主からタオルを借り
すっかり汚れてしまったラティを拭き始めた
「自分で、できる」
「エエから、じっとしときぃ」
問答無用で拭ってやる事を続けるアンディーノ
懸命にソレから逃れようともがくラティ
そのやり取りを眺めていた店主とサラが顔を見合わせ笑う声を洩らす
「……何笑ってんの?自分ら」
「オッちゃん、すっかりおとんの顔やね。見てて微笑ましいわ〜」
「はぁ?」
無意識の行動を指摘され、怪訝な顔のアンディーノを他所に
サラと店主は顔を見合わせ、更に笑う事をしていた
「何で揃いも揃ってそないに笑うん?オッさん傷つくわ」
態とらしく拗ねる様を見せてやれば
未だに笑いながら、だが沙羅が謝罪の意を示す
「ごめん、ごめん。そんなに拗ねんといて」
「オッさん苛めて楽しいか?サラ」
「楽しいは楽しいけど。だから、そんなに拗ねんといてって」
大人たちの下らないやり取りに呆れながら
待つことにすっかり飽きてしまったラティは徐に外を眺め見る
しとしとと振り続ける雨
薄暗い空の色は、どうしてか自身の胸の内までそうさせる様だと
ラティが俯いてしまえば
「ラティ。どないしたん?」
サラ達と馬鹿話をしていた筈のアンディーノが突然に顔をのぞかせてくる
だが返答はなく、俯いたままのその様に
アンディーノは溜息に肩を落とすと、またラティを抱え上げてやっていた
「な、何だと?」
「んー。何か元気ない様に見えたから」
他人の感情の起伏などjに疎そうにみえて、その実敏い
その所為もあってか、ラティはアンディーノの前ではどうしても感情を取り繕う事が出来ないでいる
「な、なんでもねぇんだよ!このやろー!」
「ラ、ラティ!?」
どうしたのか、改めて問うてみれば
だがラティは答える事もせず、アンディーノの手を振り払い外へと飛び出していった
「寂しくなんか、悲しくなんか、ない……!」
未だ降る雨に全身を濡らされながら走って、暫く後
ぬかるんだ道に足を取られ、また転んでしまう

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