《MUMEI》
1
 恋神神社、ソコは恋愛成就の神社
コイガミが住んでいるという噂のその神社には神主はなく
何故か、一人の少女が其処に住まっていた
散歩がてらに何気なく立ち寄ったそこで
三原 倖は偶然にその少女と出会い
「こんにちわ」
満面の笑顔を向けられる
余りに純粋過ぎるソレに、つい返すのが遅れ
つい無愛想に言って返せば
「ヒトが来るなんて久しぶりです。ゆっくりして行ってください」
それでも少女は笑みを絶やす事はしなかった
変わらぬ笑みを浮かべて見せる少女へ
用事など特になかった三原はその言葉に何となく甘えてみる事にした
お茶でも、と本殿脇の縁側へと案内され、出された茶を啜りながら
三原は不意に口を開いてみる
「……お前、一人か?」
傍らで三原をもてなそうと忙しく働く少女へ
つい問うてみれば小さく頷いてきた
だが他人の事情になど余り興味のない三原
それ以上は問う事はせず
茶の残りを飲み干すと、重たげに腰を上げる
「お茶、どーもな。じゃ」
早々に切り上げようと踵を返した、次の瞬間
背後から、何かを落とす様な音が派手に聞こえ、同時に少女が叫ぶような声が響いた
何事かと、また向き直ってみれば
「痛た……。またやっちゃった……」
片付けようとしていたらしい湯呑と急須の乗った盆を見事にひっくり返してしまったらしく
堕ちた湯呑の一つが割れて粉々に砕けてしまっていた
「……いい。俺が片す」
「そんな、いいですよ!」
片し始めた三原へ
自分が落としたのだから、と慌てた様子で手を伸ばし
焦っていた所為か、案の定破片で指先を切ってしまう
「痛っ……」
反射的に指をくわえた相手へ
三原は苦笑を浮かべると、ポケットから偶然にも入っていた絆創膏を出す
相手の手を取り、傷ついてしまった指先に貼ってやった
「かわいいです……」
「は?」
行き成り何の事か、とつい声を返せば
相手は自身の指に張られた絆創膏を三原へと見せてきた
「この絆創膏、とっても可愛いです。有り難う御座います」
「別に、唯持ってただけだし」
知人から貰った絆創膏
花柄故に使う事が憚られ、ポケットに突っ込んでいたのをすっかり忘れていた
這ってやる、と相手の手を掬いあげてやるとそれを貼ってやった
「じゃ、俺はこれで。気をつけとけよ。色々と、な」
「あ、あの!」
手を後ろ手に振りながら踵を返せば、声で引き留められ
何かと首だけを振り向かせてやれば
だが相手は三原の顔を見上げたまま顔を赤くするばかりだった
「何?」
引き留められ、何事かを問うてみれば
相手は益々顔を赤くし、そして口の中で言葉を籠らせる
もどかしく感じながらも待ってやれば、相手は徐に絵馬を三原へと差し出してきた
「だから、何?」
その意図が分からず、三原は僅かに怪訝な顔
相手はその事に気付き、慌てた様子で言い募る事を始める
「あ、あの、それ、良かったら、書いて、それで……」
「で?」
中々先を言えないでいる相手へ
促してやる様に顔を覗き込んでやれば
「それ、で……。また、此処にきてもらえたら、嬉しいかなって思って……」
顔面赤面で漸く呟いた
思わぬそれに虚を突かれた三原
だがすぐに肩を揺らすと返事代りに右手を上げて見せた
「じゃ、また明日な」
上げた手を相手の頭へと降ろし、子供にしてやる様に撫でてやるとその場を後に
境内から階段を降り始めれば
途中、何度か女子高生の集団とすれ違った
何やら楽しげに話しをしながら
だがその内容に、そして盗み聞きになどさして興味のない三原は足早に自宅へと帰り着いていた
「あ、お帰り。お兄ちゃん」
妹からの出迎えに程程の返事を返し
そのまま自室へと上がろうと踵を返した瞬間
妹が手に持っているあるモノに気が付いた
「恋神、神社……」
見覚えのあるその名につい見入ってしまえば
「何?お兄ちゃん、知ってるの?恋神神社」
「いや。別に知ってるって訳じゃ……」
言ってしまえば今以上に話が長引きそうだと、適当にあしらってやろうとした
その直後
中途半端にしか閉じていなかったらしい鞄から
つい先程貰った絵馬が落ちてきた

次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫