《MUMEI》

「どうだコラてめぇッ!!
これでもまだ文句あっか!?」



得意気に日高は村木にそう言った。



「…たかだか500メートルで倒れ込むなんて体力なさすぎ。」



「ぐっ…!!」



(タイムは俺より遅いくせに…)



ボソッ…
「使えねぇ…」



「て・めぇ〜は…」



「速攻?の展開になった時、」



「あ?」



「俺のパスが欲しいならもっと体力つけろ。」



「殺す…」



「…でもまぁ、」



「あん!?」



「匂いはしなくなったな。」



「ん………」















………………………………



1ヶ月前…


日高は決意を固める。


もう一度…もう一度だけこの身をスポーツに捧げてみようという決意を。


だがしかし、


これまでずっと自分の気持ちに嘘を付き続けて来た日高にとって、


今更本当の気持ちを話すのは容易なことではなかった。


だから日高は自分に課題を課した。


それを乗り越えられた時なら、


皆が自分を否定することなく受け入れてくれると思ったから。


1つは『スピード』。


ハンドボール初心者の日高が唯一持ち合わせていた武器を、


全員に認めてもらう形で誇示すること。


その方法こそが、


エキシビションの代表入りだった。


そしてもう1つは、


『意志の強さ』。


一度陸上部を辞めている自分が、


新たな道を歩く上で最も重要となる課題だった。


その証明の為、


日高は1ヶ月。


タバコを吸うことを辞めた。


これを辞めることができた時、


ようやく少し自分を認められる気がした。


誰にも語ることのなかった自分との戦いを、


日高は勝利でおさめた。


この日、


完成したかに見えていた形は、


新たな姿を予想させ、


また完成に一歩近づく。



………………………………

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