《MUMEI》

………………………………


   赤高ベンチ



「…まずいね。」



呟くクロ。



「ですね…あっという間に点差が…」



「いや、そっちじゃなくて。」



「え…?」



(点差が縮まんのがどうでもいいって言ったら嘘だけど…


それよりも問題は今のキーパーの動き。


インからのユキヒロのシュートを止めてた。


スピードに慣れられちゃうと後はコースの勝負。


はっきり言ってそっちは明らかに分が悪い。


ユキヒロのコントロールも悪くないんだけど、


コースの読み合いって点では向こうが1枚上手だし。


思ったより早い段階で止めて来たな…


できればもう少し引っ張りたかったんだけど…)



………………………………



………………………………



    コート



「ピッ!!」



審判の笛が鳴る。



「返しましょうッ!!」



中央ラインを跨ぐ赤高。



「おうッ!!!!」



セットプレーからの展開である。



(確実な1本が求められる場面だけど…)



ヒュッ…!!



右45。


峰田にパスを回す椎名。



チラッ…



ボールが離れたと同時に、


隣のユキヒロを見る。



(インからのシュートが止められちゃな…)



市原を抜くことができたとしても、


シュート方向が常に一定。


尚且つシュートスピードにも慣れられ始めているこの場面では、


エースであるユキヒロのシュートも信頼性に欠けた。



(となると…)



試していない策は1つ。



「おめ〜ら邪魔だよッ!!」



沖のポストシュートだ。



(クロさんの言葉信じてあの人に賭けたい…


気持ちはあるけど…


あぁディフェンスにマークされてるとな…)



予想外にマークの厳しい沖。


落としたい場面だが、


ディフェンスの密集具合を考えるとリスクがでかい。


(てことはだ…)



椎名は考えを巡らせる。



(ディフェンスの目を別に向ける必要がある。)



答えは単純明解。


秀皇ディフェンス陣の注意を別に向け、


沖にボールを落としやすい環境を作り出す。



(その目を向けさせる対象は…)



中に集まるディフェンスを外へ。


選択肢が絞られる。



(ずばり両サイドだ。)

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