《MUMEI》

「そんな難しい事じゃないの。唯……」
「唯?」
度々口籠ってしまう桜井
その都築を促してやるかの様に雨月の声は傍らに寄り添う
「……私ね、雨って嫌いじゃないんだ」
「え?」
意外な、桜井からの言葉
つい、驚いてしまう雨月へ、桜井はどうしてか照れた様な顔をしてみせながら
「……何で、そんなに驚くかな。そんなに意外?」
「す、すいません。余りそんな風に言ってくれる人に会ったことが無いので……」
「そうなの?」
「ええ。常日頃から雨を望んでいるヒトなんて、そうはいないでしょうから」
「そう、なのかな?」
「ひまわりは、どうして雨を好きでいてくれるんです?」
「……ひまわりって、私の事?」
先程から何度か言われ、気に掛っていた
一体何の事なのか、桜井は首をかしげて見せる
だが雨月はその問いには答えず
どうして、と自身の問いに対する答えを改めて桜井へと求めてくる
顔を間近に寄せられ、桜井はあからさまに動揺し始める
「私の事を好いてくるのは、何故なんでしょう?」
更に追い討つような微笑
ソレに中てられてしまった桜井はその顔中を赤く染めた
「……雨上がりって皆キラキラしてるでしょ?それが好きなの」
子供の様な理由で
言ううに恥ずかしいと顔を伏せてしまえば
雨月の手が傘を持つ桜井の手に重なり
驚き、思わず傘が手から離れてしまう
「ちょっ……、雨月!?」
「そういって貰えると、私も嬉しいですよ」
向けられる、笑顔
落ち付いた雰囲気とは違い、その笑顔はまるで子供の様だった
その横顔を眺め見ていた桜井
型を僅かに揺らして見せると、すでに濡れている事に開きなおったのか
小走りに遊具の傍らへ
「ひ、ひまわり!?」
「歩!」
訳が分からない呼び方を訂正してやり、桜井は飛びのる様にブランコへと腰を降ろす
「そう言えば、私質問に答えてもらってないんだけど!」
「質問、と言うと?」
覚えているのか、いないのか
白々しい様子の雨月へ
桜井は僅かに腹を立て、靴の踵で雨月の脚を踏みつけてやった
「い、痛いですよ……」
「自業自得!誤魔化そうとするそっちが悪いんだからね!」
頬を膨らませ、態と不手腐った表情を浮かべて見せれば
雨月は困った風な笑みを浮かべて見せる
「……歩さん。どうすれば機嫌を直してくれるんですか?」
すっかりそっぽを向いてしまった桜井へ
ほとほと困り果てたらしい雨月は溜息を一つ吐くと
桜井を東屋の下にある長椅子へと腰掛けさせる
暫く待っている様言って聞かせて
その言葉通りに大人しく待っていると
「お待たせしました」
雨月がその手に何やらを持って現れた
涼しげなラムネが二本
その一本を桜井へと渡し、雨月も長椅子へと腰を降ろす
「冷たくて美味しいですよ」
どうぞ、と勧められ
何やら誤魔化そうとしているのではと勘ぐっった桜井だったが
涼しげなその色に、いただきますと一言で飲んでしまっていた
「美味し」
悔しい事に、誤魔化されてしまいそうな自分が居て
その手に乗ってはいけないと、首を横へと振ると雨月の方を見やった
「やはり誤魔化されてはくれませんか」
「当然でしょ」
「どうしても?」
「どうしても!大体、その理由って、そんなに言いにくい事なの?」
「そういう訳でもないんですが……」
「なら、いいじゃない」
早く話せ、と急かしてやれば雨月は困った様子で考え込み
だが暫く後、観念したかの様に話す事を始める
「最近、天気が不安定だと思いませんか?」
「そう、言われて見れば……」
思い返して見れば確かに天候がここ最近はやたら不安定だった
天気予報も、近頃では外れる事が常になってしまっている程だ
「私達はソレを正しにきた。向日葵、あなたの力を借りてね」
「わ、私!?」」
説明はしてくれているが、言葉がやはり少な過ぎて
桜井は混乱するばかりだ
「わ、私にそんな大それたこと出来る訳ないじゃない!何考えてんの!?」
「それは重々承知しています。だから私達が居るんですよ」
混乱に動揺し始めた桜井へ
雨月は宥めてやるかの様に満面の笑みを浮かべて見せる
「大丈夫です。貴方は、唯其処に居てくれるだけでいい。事を成すのは私達の仕事ですから」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫