《MUMEI》

 助かったのはその時だけだった.
 もちろん、祖母がいなくなってからは
 しょっちゅう家に来る.
 なんとか、いままで止めてきた.
 しかし――もう限界だった時がある.
 
 樹紀は奴を知らない.
 樹紀にとっては赤の他人.
 そんな奴が親代わりだって??
 ふざけるなとそのころが思った.
 (今もそうだが)
 
 -----------------1年前---------------------------

 「ピーンポーン」
 
 チャイムが、静かな家に響く.
 もちろん、覗き穴で見る.
 
 (また、奴だ…)

 「ドンッ…ドンドン!!」

 奴が家の扉をたたく
 家の扉は簡単には壊れない.
 無謀だ.

 「帰ってくれ」

 「お前の父さんから俺が…」

 「お前の話は何度も聞いた.もし本当にそうだとしても
 俺はお前と住む気はない.一生」

 「……」
 
 奴が黙った.
 足音が徐々に遠ざかる.

 「…ふ―」

 これが地獄の始まりだった.

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