《MUMEI》

苦しそうな様子のケンイチをそっと地面に横たえ、音をたてないように移動する。
ザッザッと一人分の足音が土の地面を移動する音が聞こえた。
社の端まで移動すると、ユウゴは寝そべるようにして向こうを覗く。
そして眉を寄せて顔を引っ込め、急いでケンイチの元へ戻る。
境内を歩いていたのは、見慣れた無表情を浮かべた織田だった。
「織田が来た。隠れるぞ。声を出すな」
ケンイチの耳元で早口に囁くと彼は小さく頷いて答える。
だが、隠れると言っても身を隠す場所は目の前にある社ぐらいしかない。
かといって、裏側から中へ入れるはずもない。
この場所から隠れることのできる唯一の場所。
ユウゴは社の床下を覗き込んだ。
ひどく狭い。
しかし、仰向けになれば入れないこともない。
ユウゴはまずケンイチの身体を一気に押し込んだ。
彼は苦悶の表情を浮かべたが、声を出すことはなかった。
痛みを気遣う余裕がないことに申し訳なさを覚えながらユウゴも滑るようにして床下に入りこむ。
ひどくカビた臭いに息が詰まる。
眉を寄せながら体勢を変え、織田が立っている場所を探す。
ザッと再び音が聞こえた。
ちょうど社の横に織田の足はあった。
ゆっくりと彼はさっきまでユウゴたちがいた裏側まで移動していく。
ザッザッと足音が近づいてくる。
その足音を聞きながら、ユウゴはケンイチへ視線を向けた。
目を閉じ、唇を噛むようにして耐えているのがわかる。
顔には滝のように汗が流れていた。
もう少し耐えてくれ。
そう、心の中で願ったとき、ザッと足音が止まった。
ユウゴの頭のすぐ近くに織田の足がある。
もっと深く入り込んでおくべきだったか。
後悔が襲ってくるが、いまさら動くことなどできない。
ユウゴは息をすることすら忘れて織田の次の動きを待った。

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