《MUMEI》

「可愛いって言われるの七生嫌ってたくせに!」

昔、俺がチビだった頃は乙矢が身長を引き合いに出して馬鹿にしてくるからコンプレックスだった。


「そんな大昔の話よく覚えてたな……え、もしかして俺のこと気にしてくれてた?」

俺だって忘れているような話なのに嬉しいな。


「昔の七生は可愛かったよ、それで声とのギャップがあってさ。」


「何を言ってるんだよ、昔の二郎のが可愛かったろ、プニプニしててちょっと抜けてて……あ、抜けてるのは今もか?」


「可愛くないだろ、お前大丈夫?」


「大丈夫、可愛いってのはずっと思ってることだから。
でも二郎って可愛いって言われるの好きじゃないだろう?
可愛いって思うんだけど、結局は大好きって意味だし二郎に嫌な思いして欲しく無いから少しこれでも我慢しているんだけどな……」

つい、口が滑った。


「その……可愛いって言われると怖いんだ。俺以外にも言っていたこと知っている、過去に付き合ってた誰かと重ねているみたいで…女の子が大好きだった七生を駆り立てるものって何なんだよ……。」

突然、ぽろぽろと泣き始める。


「愛だろ。
信用無いけど、歯の浮くような甘い言葉だって全部真実だよ。二郎の前で嘘なんかつかないよ。」

気障っぽいけど膝をついて二郎へ訴えた。


「茶番、だな。
毎日やってて飽きないか?人間の本性を見てみろ、理性を消せばいいんだ。傷口が痛めば焼け、トラウマにはそれを越えた恐怖で打ち消せばいいだろう。」

学生は深いため息とともに、気味の悪い持論を説いた。


「それは痛いだけだろ、痛いのは嫌いだ。キスもハグもセックスだって溶けておかしくなるくらいに気持ちいいので忘れたい。」

快感は愛を表さないと得られない。
形にはならないけど、気持ちは触れて通う、伝えられる。

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