《MUMEI》
サトシ
「どうした?」
様子がおかしいサトシが気になり、ユウゴは顔を覗き込んだ。
サトシは俯いたまま答えた。
「みんなとは、はぐれたっていうか……」
「……ていうか?」
「その、……僕だけ、逃げてきたっていうか」
「一人だけで?」
「仕方なかったんだ!!」
ユキナの言葉にサトシは過剰なほど反応した。
「だって……だってあいつら、僕の言うこと聞かずに!!僕はダメだって言ったんだ!それなのに……」
サトシの荒い怒鳴り声が反響している。
さっきの奴らが近くにいたらまずい。
「おい、落ち着け。わけわかんねえし。あー、とにかく、ここから出よう。話はそれから聞く。な?サトシ」
ユウゴが言うと、サトシは肩で息をしたまま頷いた。
「よし、行こう」
ユウゴは頷き、二人を促した。
地上に出た三人は、とにかく人目のつかない場所へと移動した。
その間、誰も何も言わない。
なんとなく息苦しい雰囲気のまま、歩き続けた。
「……で?どういうことだよ」
ユウゴたちは雑居ビルの屋上で輪を作って座っていた。
ビルとビルの間隔が狭いこの地帯は、例え出口を塞がれても屋根伝いに逃げることが可能だ。
万が一、誰か来たときのため、ドアはすぐに開かないように固定してあった。
「サトシ」
ユキナは珍しく優しい声でサトシの肩をポンと叩く。
サトシは一瞬、ビクっと体を強張らせ、やがてポツリポツリと話し始めた。
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