《MUMEI》 初めて気づく、この思い今日も伊藤景子は平凡な日々を過ごす。朝は旦那と娘の朝ご飯の用意をし、昼はまだ幼稚園に通うことのできない2歳の娘の子守りをする。夜は旦那の仕事の話に付き合う。そんなに毎日が繰り返された。しかし今日は娘の子守りをする必要はないし、旦那の仕事話に付き合う必要もない。 娘は今頃は景子の母親と楽しく散歩でもしているのだろう。旦那は今頃、出張で、高速道路にのり渋滞に巻き込まれているのにちがいない。 二人は今日帰らない。 景子の久しぶりの自由な時。景子は決めていた。今日だけは自分の時を過ごすと。 しかし、それは予想外の出来事によって終わった。 一人で家で高級寿司の出前を取 り、楽しんでいたところに警察か らの連絡があったのだ。最初は振り込め詐欺か何かの予防の連絡かと思い、無視をしていた景子もそのしつこさに無視することができなくなった。 「もしもし、振り込め詐欺のことでしたら、もう充分理解しましたので・・・・・え・・・今なんて」 ある言葉が一方的だった景子が言葉を詰まらせた。 「あなたのご主人は伊藤真司さん、ですか?」 景子は「はい。」といった。警察の人間は落ち着いていたようだったが景子は落ち着いて聞くことはできなかった。 「ご主人が事故に遭いました。奥さん、落ち着いて聞いて下さい。ご主人は事故で残念ながら亡くなりました。」 初めはび驚きながらも軽い怪我でもしたんだろう、思っていた景子の胸の鼓動が速くなったのを景子は感じたていた。 「亡くなったってどういうことですか?」 警察の声が少し、弱くなる。 「死亡した、ということです。詳しい内容は署のほうでお話しします。まずは遺体確認のほうをお願いします。」 これは事実かと初め景子は現実を疑っていた。気分転換でもした方がいいな、と思いテレビのスイッチを入れると真司の顔写真が画面にあった。その番組内容はただ者ではない。 そこで景子は初めて、現実を見た。-真司は死んだんだ-。 景子はそう思うといてもたってもいられなくなった。憧れていた高級寿司を無視し、とっさで家を 出ていた。 署に向かって駆けていた途中、足元の違和感に気づいた。良く見てみると家の中で履いていたはずのスリッパを履いていた。景子は思わず、恥ずかしさを感じ、スリッパを脱ぎ、裸足になってまた駆け出した。 周りが自分を偏見しようと景子はもう構わなかった。 署に着くまでの間、景子は真司を思った。思い出すと自分はどんなに真司を粗末にしていたんだろう、と罪悪感ばかりが景子の胸に湧いてきた。 景子は署について、真司の居る場所を探していた。しかし、自分一人で探せるはずなかった。そこでちょうど通りかっっかた若い男の警官に自分が真司の妻だということを告げた。 若い男の警官は何かを思い出したかのような顔をして、景子を真司の元へ案外した。 真司の居る部屋は多くの警官に守られていたようだった。部屋に入ると一瞬で線香の香りを感じた。その中で真司は静かにいた。 まるで眠っているかのように。しかし、顔じゅうに事故の爪痕があった。事故の衝撃が大きかったのがわかった。目の前の死体は本当に真司の物なのかと、疑う事が景子にはできなかった。真司の手に景子と娘である未来の写真が握られていたからだ。 景子の目に涙が溢れ出して、止 まらなかった。 「伊藤景子さん、ですか?」 景子は何回も首を縦に振った。 「遺体はご主人の伊藤真司さん、ですか?」 警官の問に景子ははい、と答えた。 落ち着かないまま景子は自分の母親に連絡した。まだ、真司の死を知らない娘の未来にそのことを伝えるためだった。 真司は景子に対して、いつでも優しい男だった。デートの時は景子がこれが欲しい、ここへ行きたい、と言えばなんでも買ってくれたし、どこへでもつれてってくれた。しかし、それだけでなくかっこいい所もあった。 二人が付き合うことになったきっかけはある事件だった。景子が電車の中で痴漢にあったとき、景子は何もいえなかったのだが近くにいた真司がその男を捕まえてくれた。 景子は真司に一目惚れをしてしまった。 前へ |次へ |
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