《MUMEI》
初めて気づく、この思い -2-
 
 それからというもの景子の恋は順調だった。何度か食事を一緒にして、色々と話をした。
 そのたびに真司の新しい表情を見れた気がして景子は嬉しかった。
 そして、一ヶ月が経った時に景子は真司の誘いでいつものように食事へ行った。
 そこで信じられない事が起きた。
 「景子さん。俺、景子さんを初めて電車の中で見たときから好きでした。」
 真司は景子の目をまっすぐ見ていた。
 「はい。」
 景子はその熱い視線に驚いていた。
 「景子さん、俺と付き合って下さい。」
 景子は静かに頷いた。
 二人は幸せな二年間を過ごした後、晴れて夫婦となった。
 真司のプロポーズからだった。
 こう考えると全ての流れを真司が果たしてくれた。気づかないうちに二人の気持ちは重なっていた。

 しかし、幸せなはずの結婚生活はそう長くは続かなかった。
 真司が勤めていた会社が倒産した。
 翌日から、就職活動を始めたものの、不況のせいか真司を受け入れてくれる企業はなかった。
 景子は二人の生活のためにアルバイトを始めようとしたのだが、すぐに景子の中に新しい命が見つかった。
 当てもなく、景子は自分の貯金を削った。それが底を着いたのは、真司が働きをなくしてから三ヶ月を過ぎた頃だった。
 景子は今にもおかしくなりそうだった。真司もこの頃、外への外出を控えるようになった。
 ある日、景子は真司の頬を強く叩いた。
 「真司が働かないでどうすんのよ。私の人生どうする気よ。赤ちゃん、どうするのよ。」

 それからの真司はこれまでと少し変わった。仕事を見つけ、景子の事を気にするようになった。
 仕事に慣れていくにつれ、上司との関係が深まるようになり、少しずつ帰りが遅くなっていった。帰りを待つことさえ、景子には苦痛だった。
 ストレスは貯まるにつれ景子と赤ん坊を締め付けた。案の定、出産の日は突然に訪れた。
 真司はあわててそこへ駆け付けた。名前はもう、決めていた。
 「景子、おめでとう。女の子?かな。」
 うん、と景子は頷く。
 「みくににしよう。」
 「みく?」
 初めて気づく、この思い。
 真司、あなたはとてもよい夫だった。気づくのが遅かった。もっと、もっと、私はあなたを愛せた。
 「未来だ。この子の名前だよ。

 私はただ、もう少しあなたの側にいたかった。何であなたは死んでしまったの?

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