《MUMEI》

「ええ、ちょっと喉の調子が良くなくて…。」ゴホッゴホッ!


陽菜はわざとらしく咳払いし、マスクに隠れていない目の表情だけで、いかにも辛い症状だということをアピールした。


しかし所詮アイドル風情の演技力など、タカが知れている…。


どちらかと言えば適当な理由をつけて、早くこの場を立ち去りたい様子が見え見えの受け答えだった。



「あ〜そぅ…。お大事にね…。」


心配して声をかけたのに適当にあしらわれた男性芸人は、一瞬眉をひそめながらも、とりあえず挨拶をして陽菜を見送ろうとした。


しかし陽菜は、その挨拶すら終わらないうちにクルリと背を向けて、控室に消えてゆくのだった――…。


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