《MUMEI》
予兆
平成23年3月9日…17時少し前の事だった。
そろそろ終業だな…と思ってた頃、携帯に自宅からの着信。
「もしもし?」
電話に出たのは母だった。
「ちょっと大変だよ!あんたの部屋の熱帯魚の水槽にヒビが入って、水が漏れてるわよ!」
「ええッ!?」
…この日、日中にやや大きな地震があった。それが原因で水槽が割れたのか…。
職場のある立川から大急ぎで越谷の自宅に戻り、部屋の水槽を確認すると、
母が慌てて張ったのだろう、ガムテープがべたべた貼られた水槽が、そこにはあった。
床には10枚程のタオル…それほどべちゃべちゃになって無いところを見ると、大量の水漏れでは無かったようだ。
しかし、回り込んだヒビからの水漏れは止まらない。
私は大急ぎでホームセンターに走り、同サイズの水槽を購入すると、早速熱帯魚水槽の引越し作業を開始した。

ヒビの入った原因はすぐに判った。
水槽に入れていた補助濾過装置が地震で激しく揺れ、水槽のガラスにぶつかったのだ。
しかもこの濾過装置、現在売られてる同タイプのものより古く、若干重い。
構造上、砂利系濾材の受け皿が二重になっているのが災いし、振り子のように激しく揺れてしまったようだ。

熱帯魚水槽の引越しが終わったのは、日付が替わってすぐ位だった。
(やれやれ…こりゃ完全に寝不足だ…)
そう思いながら、もう一つの水槽をチェックする。こちらには金魚がいるのだが、水槽に異状は無く、一安心。
一気に眠気が押し寄る。部屋の照明を消し、布団に潜ると、そのまま泥のように眠り込んでしまった。

翌朝…目覚めると同時に、熱帯魚水槽をチェック。例の濾過装置は、昨夜の引越しの時に、ガラス面から離していた。
(まあ、大丈夫だろう…)
そう思いつつ身支度を始め、午前5時、いつも通り自宅を出た。

だが…前日の地震は、予兆だったのだろう。
この翌日…未曾有の大災害が日本を襲うとは、この時、夢にも思っていなかった…。

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