《MUMEI》 い・わ・さ・き〜!大きく手を振って近づいてきたのは同じゼミの数少ない友人だった。 小さく手をふって応える。 「久しぶり!‥‥なんか考え事?」 「ん、まぁな」 「あ‥‥もしかして彼女のこと?彼女体調悪いん?」 「や、フツーに元気だよ、今一緒に住んでる」 「そなんだ。よかったな」 こいつは顔ばっかりよくて何故ここにいるのかわからないような馬鹿だが、気休めの励ましを言わない所で他の奴らよりも好ましい。 「今度遊びに行っていい?彼女紹介してよ」 「ダメ」 「なーぁんでぇー」 いやブリっコされても。 顔がよくて雰囲気が軽いこいつにだけは恋人を紹介したくないというヤツが多いのだ。俺だってそうだ。まさか彼女が、こいつを好きになる、なんてことは、ない、と思う、が。 「高校生なんでしょ?かわいんだろーなー」 にこにこ笑顔のこいつに悪気はない。ただ、俺がチキンなだけなのはわかってるが。 「まぁいーけどね。岩崎が彼女のこと愛してんの俺知ってるし。誰にも見せたくないんだよねー?」 「愛してるとか言うなキモイ!」 「キモくないキモくない。岩崎彼女に愛してるとか言う?言わないでしょ」 笑みまじりに言われると辛いが、たしかに俺は「愛してる」なんて言ったことはない。恋愛慣れしていないから仕方ない、と自分では思っているが。 「俺はわかってるよ、岩崎がこんだけ見た目も中身も変わったんだから」 「そんな変わったか俺?」 「うん。はじめて会ったときは雰囲気暗かったしさ、服もダッサかったじゃん」 改めて言われるとつらい。そんな明らかに変わってたか。 「だからさ、穏やかになったしカッコよくなったし、俺すんげぇわかるよ。岩崎の中で彼女の存在がデカいこと」 ベンチに腰かける二人の男、春の陽光は穏やかに、普段チャラけた男の薄い唇からつむぎだされるのは優しく真摯な言葉。 「彼女ともっと一緒にいられるといいな」 「‥‥そだな」 いつかアイツに愛してると言ってやろう。 小さな目標ができた4日目。 この夜愛してると言おうとして舌を噛んで言えなかったのは別の話。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |