《MUMEI》 異例余震が収まった後、丸森さんを帰宅させ、私と川俣所長、そして元請け先である会社の横溝さんの三人で、ビル内を巡回した。 目立った損傷は無かったが、それでも廊下の壁の石膏ボードの亀裂を目にした時は、息を呑んだ。 川俣所長が言った。 「…山口君、目立つ所だけでいいから、床に落ちた石膏の粉を掃除してくれないか?」 「わかりました。」 私は掃除機を用意し、廊下の掃除機掛けを始めた。それが終わると控室に戻り、テレビをつけた。 既に各テレビ局は報道特別番組に切り替わっていたが…信じられない映像が流れていた。 「……………!!!」 東北地方の太平洋沿岸を襲う津波…気仙沼が…宮古が…陸前高田が…石巻が…情け容赦なく津波に破壊される映像…。 …言葉を失った。現実を受け入れる事が出来なかった。 だが…紛れもない現実が、そこにはあった。 (そう言えば…お袋と親父は無事なのか?) 私のいた立川は震度4。しかし、父の勤め先である渋谷は5弱、自宅のある越谷は5強を記録していた。 私は両親に「無事なら連絡くれ!」とメールを送信した。 電話は事務所の固定電話、携帯ともに繋がらない。メールが何とか送れる程度だった。 (待てよ…?) 私は首から提げてた携帯を見た。会社から支給された、通話専用のmova携帯…。 そう言えば、私は会社に連絡を取る時に、私の携帯(FOMA)と会社携帯の両方から発信していたが、 繋がったのは会社携帯だった。 (もしや…!) 会社携帯を私用で使う事は、勿論禁じられている。だが、今は非常時…後で怒られりゃ済む事だ…。 果たして、自宅に繋がった。何とか母の無事を確認できた。 「お前の部屋の金魚たちも無事だよ」 あの地震の時、母は私の部屋の水槽を、二つともずっと押さえていたと言う。 「家は大丈夫だけど、お前は帰れるのかい?」 「いや、こっちに泊まる事になりそうだ」 地震直後から、首都圏の鉄道は全社で運転見合せとなり、一部の私鉄は遅くなって運転再開したものの、 JR東日本は夕刻、全線でその日の運行を全て打ち切ると言う、異例の措置を取った。 この時のJR東日本の対応に、一部報道やネット掲示板等で批判が出ているが、 今思うと…この措置は正しかったと考える。人命、安全を重視した結果と私個人は考えている。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |