《MUMEI》

ほっとけばいいのに、とのエドガーに
アンディーノは苦笑を浮かべ、後は任せたと店を出て自宅の方へ
途中、掃除道具を押し込んでいる物置の前
立ち止まると徐に中を探り始め、そこから埃を被ってしまっている自身の獲物を取って出すと外へ出る
「……エエ天気」
外は嫌味な程晴れ渡った晴天
降る眩しさに、アンディーノは手で日よけを作りながら空を仰ぎ見た
「……俺も、歳取ったな」
物思いに耽る自身へ嘲笑を浮かべて見せれば
見えた景色の奥に、人影が佇んでいるのが見えた
ソレが探していた人物のモノだと気付いたのはすぐ
数m先に群れを成し眠る狼たちを眺め見ているラティの姿があった
「……何しとんの?ラティ。危ないやん」
背後から抱き込んでやり、引き寄せてやれば
行き成りのソレに驚いたように、アンディーノの方を向いて直る
「ディノ」
「ん?」
「……あいつら、何でいるんだよ」
唐突な問い掛け
その声に何の感情も感じられずに居るのは、やはり(あの時)が原因だった
十数年前、ラティの母親が狼に喰い殺された瞬間
自警団として動いていたアンディーノは偶然にもその場に居合わせていた
だが助けるには間に合わず、次の瞬間流れ出た血液
あの濃い朱の色だけはアンディーノさえも今に忘れる事が出来ずにいる
一番近くでそれを見ていたラティが実の前の獣を憎むのは当然のことだった
「……ラティ、帰るか」
「嫌だ」
「何で?」
多少なり困った風に問うてやれば、ラティは答える事はせず首を横へ
その胸の内が何となくだが解ってしまうアンディーノはそれ以上強く問い詰める事はせず
だが危ない事には代わりないから、と
何とかラティを言いきかせ、その場から離れた
「ラティ、少しおっさんに突き合ってや」
腕を取り、問う事をしながらも有無を言わせず引っ張っていく
最初こそ僅かに抵抗していたラティだったが
すぐ大人しくされるがままに
そして連れて来られたのは、
「……畑」
「畑んトコの柵直さなアカンて言っとたろ?」
ソレをしに来たのだと笑うアンディーノ
畑の隅に準備してあった木材を器用に組み始める
「ラティ、そこのトンカチ取って」
「こ、これか?」
「そう、それ」
受け取ったそれで器用に柵を修復していく様を
ラティは傍らに膝を折ってそれを眺め見る
やってみるか、と差し出してやれば戸惑いがちに受け取って
「手ェ、打たんように気ィ付けてな」
「……子供じゃねぇんだ。平気だよ」
「そか?ならそっちの分頼むわ。オッさんこっち片すから」
「ん」
珍しく素直に作業を始め
その様子を横眼で眺め見ながら、アンディーノは僅かに肩を揺らす
「何だよ?」
ソレが聞こえたのか、作業する手を一旦止め、ラティはアンディーノへ怪訝な顔をしてみせた
何を笑っているのかを改めて問われ
だがアンディーノは答える事はせず、何でもないを返すだけ
「変な奴」
口元だけを綻ばせる笑みを浮かべ、作業をまた始める
流石に手が多いこともあってか、柵作りは意外荷も早く終わり
気付けば太陽が真上
丁度、昼食時だ
「ついさっき朝メシ食うたと思ったけど」
やはり時間になると腹は減るモノだと笑うと
「健康って、事だろ。結構な事じゃないか」
どうやらラティも同じ様だった
ソレまで強張っていた表情が漸く緩んだ様に見え
作業の手を一時的に止め
取り敢えず食事にしようと、アンディーノは降ろしていた腰を上げていた
「行こか」
歩き始めたアンディーノはラティの手を取りと、そのまま歩き始める
突然のソレに照れ、だが文句を言う事はせずそのまま黙々と付いて歩き
すっかり泥だらけになってしまった衣服を着替え、そのまま店の台所へ
「何食いたい?」
適当に引っ掛けてあったエプロンを身に着け食材を漁り始めれば
ラティがその傍らへ
起成、アンディーノのから材料と包丁を取っていた
「ラティ?」
「……昼メシも、俺が作ってやる」
一体どういった風の吹きまわしか
座って待て居る様に言ってくるラティに、素直に従い腰を降ろす
意外にも手際よく動く様を眺め
やはり大きくなったモノだと感慨もひとしおだ
「……出来たぞ。食え」

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