《MUMEI》
別世界
「………?」
立川駅でバスを降りた私は、何か違和感のようなものを、肌で感じていた。
土曜日の昼間…駅周辺が賑わっている時間帯だと言うのに、いつもの半分…いや、それ以下の人出だったように感じた。
立川駅のコンコースに出る。やはり、まばらまではいかないが、いつもの土曜より、人は少なかった。
(ちょっと、一服するか…)
週に二、三度立ち寄るコーヒーショップに吸い込まれるように入り、何時ものようにコーヒーを注文…。
店でコーヒーを注文し、代金を払う…そのような当たり前の行為にも、何故か…罪悪感を感じていた。
コーヒーを口にしながら、
(これから…どうなってしまうのだろう…)
…不安と共に、そんな事を考えていた。
コーヒーの味など、わかるはずもなかった…。

立川から西国分寺まで出て、JR武蔵野線の電車に乗り込む。電車が東所沢を出た頃、私は携帯のワンセグテレビを起動させた。
…そこには信じられない…いや、信じたくない光景が映し出されていた…。

東京電力福島第一原子力発電所…その1号機の原子炉建屋が、木っ端微塵に吹き飛ぶ映像…。

最悪の悪夢を見ている気分だった…。
そして同時に、過去に起こった『チェルノブイリ原子力発電所事故』の事が、頭をよぎった。
当時、史上最悪の原発事故と報じられ、今もなお放射能汚染が深刻なチェルノブイリ…。
避難を余儀なくされ、廃墟と化した周囲の村々…。
それと同様の事故が、日本で…。
私はワンセグを切り、携帯を閉じた。
バッテリーが少なくなっていたせいもあったが…今思えば、あまりに想定外の事が起こり過ぎて、現実を直視したくなかったのだろう。

「…本当に…ここは南越谷なのか…?」
電車を降り、改札を抜けた私は、思わず呟いていた。
いつもの帰り道のはずなのに、立ち止まり、まるで初めて訪れる街に来たかのように、周囲を見回していた。
いつもの賑わいは無く、まばらな人通り…。
東武伊勢崎線新越谷駅に併設されている駅ビルをはじめ、多くの店舗が臨時休業していたのが原因の一つだった。
だが私は、いつもの場所であっていつもの場所で無い…言わば、パラレルワールドに放り込まれたような錯覚に襲われていた。

伊勢崎線で自宅の最寄駅に着き、駐輪場に預けていた自転車で自宅に向かう。
走ること10分足らず…漸く自宅に戻って来ることができた。
「ただいま…」
二階のリビングにいた両親に声をかける。
「おう隆弥!生きてたか?」
「お風呂沸かしてあるから、入ってきな」
「ああ、そうさせてもらうよ…」

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