《MUMEI》
笑って…
「カハッ…」

心臓を捕らえた鉄パイプは、リョウの身体を貫通していた。


止まることのない血


心臓を刺されれ、呼吸も満足に出来ず、苦しそうな表情を浮かべ倒れていくリョウをせめて受け止めてあげたかったのに




出来なかった。



初めて人を殺した怖さと


望まない殺人を強要されるのが、ここまで辛いものだとは…

今までリョウが味わった痛みを思い知らされた気がして

頭が真っ白になって身体が動いてくれなかった。



「ごめんなさい…」


他に言う言葉が見付からず、ただひたすら謝る事しかできないでいる加奈子の手に何かが触れた。


「加…奈、子……」

「リョウ…?」


リョウの手がそっと触れていた。

「リョウ!!」


姿は変形してしまったまま、元には戻らなかった。


でも分かる。
そこに悪魔はいない。


今度は獲物ではなく、ちゃんと加奈子の姿を捕らえていたのだ。



「ごめんなさい!私…私…」

「笑‥てよ…」

「え?」

「笑って…見送って…」









感情隠すの苦手だけど、きっと今、すごく自然に笑えてる。




そう思ってたのに…





「ありが‥と…。」




ずるいよ…






リョウが泣いているなんて。







徐々に体温を失っていくリョウの身体を抱きしめながら、堪えきれずに加奈子も泣いた。

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