《MUMEI》

相変わらず無愛想な顔のまま完成した料理が目の前に置かれる
トマトのパスタ
ラティが幼少の頃によく作ってやっていた事を覚えていたらしく
食べてみればその味はよく似ていた
覚えていてくれていたのだと嬉しさに顔を綻ばせた
その直後
「おーい、ディノ。腹減ったぞ、いい加減店に戻って来い」
「えー。もう少しエエやん」
「何言ってんだよ。全員腹減らして待ってんだからな」
さっさと戻って来い、と急かされ
アンディーノは折角のラティ手製のパスタを味わう暇もないまま
掻き込むように食べてしまうと仕方なしに店の方へ
「……もう少し年寄りは労われっちゅうねん」
「そう文句言うなって。そうだ、なぁ坊ちゃん」
話しの矛先を唐突にラティへ
「悪ィんだけど、煙草買ってきてくんねぇ?」
頼むと一言で小銭を手渡す
突然のソレに驚いたラティだったが、すぐに頷き踵を返した
「行き成り、何やの?」
ソレを訝しく思ったアンディーノが表情にも顕わに問うてみれば
以前と同じように耳元へと唇が寄せられ
「……奴等の、出所がわかった」
「出所?」
「ああ。ま、言ってみれば狼さん製造工場ってトコだな」
「そんなもんあったん?」
意外なソレに首を傾げれば
フォンスは紙ナプキンを取ると、それに地図を書き殴りアンディーノへと押しつけた
「行く気があれば行ってみろ。但し、坊ちゃんには内緒にしといたほうがいいと思うけど」
「……せやろな」
幼少の頃より恐れていた狼
恐怖ばかり感じていた子供がいま持っているのは
憎悪と嫌悪
ソレこそその群れの中へと飛び込んで行きかねない
「……やんちゃに育ったからなぁ」
「……あれ、やんちゃって言うのか?」
アンディーノの呟きに
何か違うのではとのフォンスへ、苦笑を浮かべて返すと
アンディーノは僅かに肩を揺らし
段々と賑わいを増していく客達を捌いてやるため料理を作り始めた
そのピークも漸く終わったかと思えば起きはすでに日暮れ
どっこいしょの掛け声と共に手近な椅子へと腰をおろせば
フォンスのお使いから丁度ラティが帰ってきた
「……あいつは?」
すっかり閑散としてしまっている店内
使いを頼んだはずのフォンス本人すらいない事に
ラティの眉間に明らかな皺が寄った
「……ヒトに買いに行かせといて何で居ねぇんだよ!あの野郎!」
「なら、それオッさんに頂戴」
怒りを爆発させる寸前
アンディーノがラティの手からソレを取った
一本銜え、調理場のコンロで直に火を付ければ
白い煙が店内に漂い始めた
「……お前、煙草吸うんだな」
「意外やった?」
聞いてやれば、素気なく別にが返ってきて
アンディーノは僅かに肩を揺らすとまた白い煙を吐き出しながら
「止めたんはラティと一緒に住む様になてからやったかな」
「俺と?」
「小さな子には特に毒やし。それで、な」
相変わらずの笑みを向けてやった
「……あっそ」
却って来たのは素気ない返事
アンディーノは笑みを苦いソレに変えるとそのまま白い煙をぷかりとふかし続ける
「……それ、美味いのか?」
「んー。美味くはないな」
「じゃ、なんで吸ってんだよ」
止めればいい、とのラティへ
アンディーノはその通りだと擦っていたそれを靴の底で押し消していた
問いに対する答えは返す事をせず
「ラティ、オッさんちょっとちょっと出てくるから。後片付け頼んでもええ?」
「別にいいけど、あんま遅くなんなよ」
「……何しに行くか、聞かへんの?」
意外にもあっさりとしたソレについ問うてしまえば
ラティは溜息に肩を落としながら
「……聞いてお前が答えんならいくらでも聞くけど。言う気、ねぇだろ?」
「勘認」
「だから、聞かねぇでいてやるから。なるべく早く帰って来い」
ひらりと手を振られる
アンディーノはふっと肩を揺らすと、ラティの頭へと手を置いて
「ほな、行ってきます」
短いソレで、家を出た
軒先に立て掛けてあった獲物を取ると街中を抜けて行く
途中、何人もの常連客とすれ違い
適当に世間話を交わしながら、地図に書かれていた場所へ
到着した頃にはすっかり日が暮れてしまっていた
「ここが狼共の根城、か」
街の郊外
人気が全くと言っていい程にない其処にひっそりと立つオレンジの木
だが風こそ吹く事はあってもその姿を見受ける事は出来ない

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